学研全訳古語辞典 |
こと 【言】
①
ことば。言語。
出典土佐日記 一・二〇
「唐土(もろこし)とこの国とはこと異なるものなれど」
[訳] 中国と日本とでは言語が違うのであるが。
②
うわさ。評判。
出典万葉集 六二六
「君によりことの繁(しげ)きを故郷(ふるさと)の明日香(あすか)の川にみそぎしに行く」
[訳] あなたのことでうわさがしきりなので、旧都である明日香の川にみそぎをしに行く。
③
和歌。
出典枕草子 清涼殿の丑寅のすみの
「これに、ただいまおぼえむふるきことを一つづつ書け」
[訳] この色紙に、いますぐ思い出されるような古い和歌を一首ずつ書け。
参考
「事」と同じ語源という。奈良時代以降に分化したといわれるが、奈良・平安時代の「こと」には「言」「事」のどちらにもとれる例がある。
こと 【事】
①
出来事。
出典徒然草 一三七
「万(よろづ)のことも、始め終はりこそをかしけれ」
[訳] すべての出来事も、始めと終わりがおもしろい。
②
事件。一大事。重大な出来事。
出典源氏物語 桐壺
「はかばかしき後ろ見しなければ、ことある時は、なほ拠(よ)りどころなく心細げなり」
[訳] しっかりした後ろだてがないので、一大事が起こったときは、やはり頼りとする所がなく心細いようすである。
③
行い。事柄。
出典万葉集 四〇九四
「わご大君の諸人(もろひと)をいざなひ給(たま)ひ善きことを始め給ひて」
[訳] わが天皇はいろいろな人をお誘いになり、(大仏建立という)善い行いをお始めになって。
④
宴。儀式。行事。
出典源氏物語 花宴
「夜いたう更けてなむ、こと果てける」
[訳] 夜がたいそう更けて、宴が終わった。
⑤
〔活用語の連体形に付いて〕…すること。▽動作・作用・存在・状態などを表す名詞句を作る。
出典万葉集 三六
「この川の絶ゆることなく」
[訳] (吉野離宮は)この川のように絶えることがなく。
⑥
〔文末に用いて〕…ことだなあ。▽感動の意を表す。
出典伊勢物語 四六
「あさましく対面(たいめ)せで、月日の経(へ)にけること」
[訳] あきれるほどお目にかからないで、歳月がたってしまったことだなあ。
こと 【琴】
①
「琴(きん)」「箏(さう)」「琵琶(びは)」など、内部が空洞になった胴の上に弦を張ってある弦楽器の総称。また、それらを弾くこと、および、その奏法。
②
(後世)十三弦の「箏」。
こと 【如】
〔下に仮定の表現を伴って〕同じく(…するならば)。どうせ(…するならば)。
出典万葉集 二三一七
「こと降らば袖(そで)さへぬれて通るべく」
[訳] どうせ降るならば袖までもぬれて通るほどに。
こと- 【異】
〔名詞に付いて〕他の。別の。「こと人」「ことざま」「こと国」
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