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学研全訳古語辞典

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まえ 【前】

⇒まへ



まへ 【前】

名詞

前方。前。


出典徒然草 四一


「賀茂(かも)の競(くら)べ馬を見侍(はべ)りしに、車のまへに雑人(ざふにん)立ち隔てて見えざりしかば」


[訳] 賀茂の祭りの競べ馬を見物しましたところ、牛車(ぎつしや)の前方に身分の低い者たちが立ちさえぎって見えなかったので。


以前。前。昔。


出典更級日記 夫の死


「初瀬にて、まへの度、『稲荷(いなり)よりたまふしるしの杉よ』とて、投げいでられしを」


[訳] 初瀬で、以前の参詣(さんけい)のとき、「稲荷様からくださる証拠の杉よ」と言って、投げ出されたのを。


神や貴人などを間接的にさしていう語。▽接頭語「お(御)」などを伴って。


出典枕草子 うへにさぶらふ御猫は


「御まへにもいみじうおち笑はせ給(たま)ふ」


[訳] 中宮様におかれても、(事情がわかって)大変お笑いになられる。


伺候(しこう)。参上。伺い。貴人のそば近くに出て仕えること。


出典枕草子 宮にはじめてまゐりたるころ


「あへなきまで御(お)まへ許されたるは」


[訳] あっけないほど簡単に御前に出て仕えることを許されたのは。


女性を尊敬して名前につける語。▽「…のまへ」の形で。


出典平家物語 一〇・千手前


「千手(せんじゆ)の前」


[訳] 千手様。



さき 【先・前】

名詞

先端。はし。


出典源氏物語 末摘花


「さきの方(かた)すこし垂りて色づきたること」


[訳] (鼻は)先端のほうが少し垂れ下がって、赤みを帯びていること。


先頭。前。


出典万葉集 四四六五


「大久米(おほくめ)のますら健男(たけを)をさきに立て」


[訳] 久米部(くめべ)の勇ましくてりっぱな男を先頭に立て。


「先追ひ」「先払ひ」の略。先払い。貴人が往来を通るときに、前方の通行人などを追い払い、警護すること。また、その人。


出典源氏物語 総角


「遠うなるまで聞こゆるさきの声々」


[訳] 遠くなるまで聞こえる先払いの声々。


以前。前。過去。


出典源氏物語 桐壺


「さきの世にも御契りや深かりけむ、世になく清らなる玉の男御子(をのこみこ)さへ生まれ給(たま)ひぬ」


[訳] 前の世においてもご宿縁が深かったのであろうか、この世にまたとなく気品があって美しい玉のような男の御子までもお生まれになった。


将来。


出典徒然草 八三


「万(よろづ)の事、さきのつまりたるは、破れに近き道なり」


[訳] 何事であれ、将来が行き詰まっているのは、破綻(はたん)が近い道理である。








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