学研全訳古語辞典 |
あや・し
活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ}
(一)
【怪し・奇し】
①
不思議だ。神秘的だ。
出典源氏物語 桐壺
「げに御かたち・有り様、あやしきまでぞ覚え給(たま)へる」
[訳] なるほど、お顔だち・お姿が、不思議なほど(亡き更衣に)似ていらっしゃる。
②
おかしい。変だ。
出典枕草子 清涼殿の丑寅のすみの
「女御、例ならずあやしとおぼしけるに」
[訳] 女御は、いつもとは違い、(ようすが)おかしいとお思いになったところ。
③
みなれない。もの珍しい。
出典徒然草 一二一
「珍しき鳥、あやしき獣(けもの)、国に養はず」
[訳] 珍しい鳥、みなれない獣は、国内では飼わない。
④
異常だ。程度が甚だしい。
出典徒然草 序
「心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそ、ものぐるほしけれ」
[訳] 心に浮かんでは消えてゆくたわいもないことを、とりとめもなく書きつけていると、(思わず熱中して)異常なほど、狂おしい気持ちになるものだ。◇「あやしう」はウ音便。
⑤
きわめてけしからぬ。不都合だ。
出典源氏物語 桐壺
「打ち橋・渡殿(わたどの)のここかしこの道にあやしき業(わざ)をしつつ」
[訳] 打ち橋や渡殿のあちこちの通り道にきわめてけしからぬことをしては。
⑥
不安だ。気がかりだ。
出典奥の細道 那須
「うひうひしき旅人の、道ふみたがへん、あやしう侍(はべ)れば」
[訳] (その地に)まだ物慣れていない旅人が、道を間違えるようなのも、不安でありますから。◇「あやしう」はウ音便。
(二)
【賤し】
①
身分が低い。卑しい。
出典発心集 六
「あやしの身には得がたき物にて」
[訳] 身分が低い者の身には、手にいれにくい物で。
②
みすぼらしい。みっともない。見苦しい。
出典枕草子 虫は
「親の、あやしき衣ひき着せて」
[訳] 親が、みすぼらしい着物を着せて。
参考
貴族には当時の庶民の生活は不思議で理解できないところから、(二)の意味が生じた。(一)(二)の別系統の意味があることに注意すること。
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