学研全訳古語辞典 |
ゐる 【居る】
{*語幹・活用語尾が同一}
①
座る。腰をおろす。座っている。
出典伊勢物語 九
「その沢のほとりの木の陰に下りゐて」
[訳] その沢のほとりの木の陰に、馬から降りて座って。
②
動かないでいる。じっとしている。とまる。
出典徒然草 一〇
「寝殿に、鳶(とび)ゐさせじとて縄を張られたりけるを」
[訳] 寝殿に、鳶をとまらせまいとして(大臣が屋敷の者に命じて)縄をお張りになっていたのを。
③
とどまる。滞在する。居つく。
出典枕草子 殿などのおはしまさで後
「久しう里にゐたり」
[訳] 長い間、里にとどまっていた。
④
ある地位に就く。就任する。
出典源氏物語 葵
「前坊(せんばう)の姫君、斎宮(さいぐう)にゐ給(たま)ひにしかば」
[訳] 前の皇太子のお姫様が、斎宮の地位に就きなさったので。
⑤
おさまる。静まる。静かになる。
出典平家物語 九・生ずきの沙汰
「梶原(かぢはら)、このことばに腹がゐて」
[訳] 梶原は、この(=高綱の)言葉で怒りがおさまって。
活用{ゐ/ゐ/ゐる/ゐる/ゐれ/ゐよ}
〔動詞の連用形に付いて〕ずっと…ている。…しつづける。
出典徒然草 三二
「物の隠れよりしばし見ゐたるに」
[訳] 物陰からしばらく見つづけていると。
参考
「居(を)り」は、ある状態でいつづける意。
ゐる 【率る】
{*語幹・活用語尾が同一}
①
伴う。引き連れる。連れる。
出典伊勢物語 六
「やうやう夜も明け行くに、見ればゐて来(こ)し女もなし」
[訳] だんだんと夜も明けていくので、見ると連れて来た女もいない。
②
身につけて持つ。携帯する。携える。
出典増鏡 むら時雨
「内侍所(ないしどころ)・神璽(しんし)・宝剣ばかりをぞ、忍びてゐてわたさせ給(たま)ふ」
[訳] (後醍醐(ごだいご)天皇は)八咫(やた)の鏡・八尺瓊(やさかに)の曲玉(まがたま)・天(あめ)の叢雲(むらくも)の剣(の三種の神器)だけを、こっそりと携えてお移りあそばす。
注意
「率る」を「ひきゐる」と読まないこと。
参考
ワ行上一段活用の動詞は、「率る」のほかには「居る」「率(ひき)ゐる」「用ゐる」があるだけである。このうち「率ゐる」は「引き」+「率る」、「用ゐる」は「持ち」+「率る」によって成立した語である。
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