学研全訳古語辞典 |
-く
〔四段・ラ変動詞の未然形、形容詞の古い未然形「け」「しけ」、助動詞「けり」「り」「む」「ず」の未然形「けら」「ら」「ま」「な」、「き」の連体形「し」に付いて〕
①
…こと。…すること。▽上に接する活用語を名詞化する。
出典万葉集 四〇〇八
「思ふそら安くあらねば嘆かくを留(とど)めもかねて見渡せば」
[訳] (旅立つと)思う心が不安なので、(私は)嘆くことを抑えることができなくて(景色を)見渡すと。
②
…ことに。…ことには。▽「思ふ」「言ふ」「語る」などの語に付いて、その後に引用文があることを示す。
出典徒然草 二四三
「父が言はく」
[訳] 父が言うことには。
③
…ことよ。…ことだなあ。▽文末に用い、体言止めと同じように詠嘆の意を表す。
出典万葉集 三八九二
「磯(いそ)ごとに海人(あま)の釣り舟泊(は)てにけりわが舟泊てむ磯の知らなく」
[訳] あちこちの磯に漁師の釣り舟が停泊している。(だが、)私の舟が停泊するのによい磯はどこか知らないことだなあ。
参考
(1)一説に、接尾語「らく」とともに、「こと」の意の名詞「あく」が活用語の連体形に付いて変化したものの語尾という。(2)多く上代に用いられ、中古では「いはく」「思はく」など特定の語に残存するようになる。(3)この「く」を準体助詞とする説もある。
く 【句】
①
漢詩の、四字、五字または七字などからなる一区切り。
②
和歌で、韻律上の、五音あるいは七音からなる一区切り。
出典伊勢物語 九
「かきつばたといふ五文字(いつもじ)をくの上(かみ)に据ゑて、旅の心を詠め」
[訳] かきつばたという五文字を句のはじめに置いて旅における感慨を和歌に作れ。
③
短歌・連歌(れんが)・連句などで、五・七・五、または七・七の音節の組み合わせからなる一まとまり。
④
連句における発句(ほつく)。また、俳句(はいく)。
句切れ
分類文芸
短歌で、結句(末句)以外の句の終わりに、意味や音調の上の切れ目があって、そこで一首が区切れること。初句切れ・二句切れ・三句切れ・四句切れがある。三句切れの歌は七五調となり、『古今和歌集』『新古今和歌集』に多い。二句切れや四句切れの歌は五七調となり、『万葉集』に多い。
く 【来】
{*語幹・活用語尾が同一}
①
来る。
出典万葉集 四二四三
「行くともくとも船は早けむ」
[訳] 行くとしても来るとしても船は速いことだろう。
②
行く。▽目的地に自分が居るという気持ちで。
出典伊勢物語 二三
「かの女、大和(やまと)の方(かた)を見やりて、『…』と言ひて見出(みい)だすに、からうじて、大和人、『こむ』と言へり」
[訳] その女は、大和の方角を見ながら、「…」と歌を詠んで外を見ると、やっとのことで、大和の男から「(そちらへ)行こう」と言ったきた。
③
おとずれる。
出典古今集 秋上
「秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる」
[訳] ⇒あききぬと…。
活用{こ/き/く/くる/くれ/こ(こよ)}
〔動詞の連用形に付いて〕以前からずっと…する。…てくる。
出典万葉集 三六三七
「幾代経(ふ)るまで斎(いは)ひきにけむ」
[訳] (この島は旅人を)長い年月を経た今までずっと大切に守ってきたのだろう。
参考
命令形は、中古までは「こ」が普通。中世以降「こよ」が多くなる。
く 【消】
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
消える。なくなる。
出典万葉集 四〇〇四
「立山(たちやま)に降り置ける雪の常夏(とこなつ)にけずて渡るは神(かむ)ながらとそ」
[訳] 立山に降り積もった雪が夏の間中消えずにあるのは(立山の)神のみ心のままだということだ。
参考
上代に用いられたが、連体形・已然形・命令形の確かな用例は見当たらない。
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