学研全訳古語辞典 |
わ・ぶ 【侘ぶ】
{語幹〈わ〉}
①
気落ちする。悲観する。嘆く。悩む。
出典伊勢物語 九
「限りなく遠くも来にけるものかなと、わびあへるに」
[訳] この上もなく遠くまでもまあ来てしまったものだなあと、互いに嘆き合っていると。
②
困る。困惑する。当惑する。
出典源氏物語 花宴
「いといたう強(し)ひられて、わびにて侍(はべ)り」
[訳] まったくたいそう(酒を)無理強いされて、困っております。
③
つらく思う。せつなく思う。寂しく思う。
出典古今集 雑下
「わくらばに問ふ人あらば須磨(すま)の浦に藻塩(もしほ)たれつつわぶと答へよ」
[訳] たまたまに(私のことを)尋ねる人があったなら、須磨の浦で藻塩草に潮水をかけながら(涙を流して)せつなく思っていると答えてください。
④
落ちぶれる。貧乏になる。まずしくなる。
出典古今集 仮名序
「あるは、昨日は栄えおごりて、時を失ひ、世にわび」
[訳] ある場合には、昨日(まで)は栄えて思い上がっていたのに、(今日は)時の流れに合わないで勢力がなくなり、世間で落ちぶれて。
⑤
わびる。謝る。
出典宇治拾遺 一一・三
「『ただ許し給(たま)はらむ』とわびければ」
[訳] 「ともかく許しをいただきたい」と謝ったので。◇「詫ぶ」とも書く。
⑥
静かな境地を楽しむ。わび住まいをする。閑寂な情趣を感じとる。
出典松風 謡曲
「ことさらこの須磨の浦に心あらん人は、わざともわびてこそ住むべけれ」
[訳] 特にこの須磨の海岸では、情趣のわかる人は、わざとでもわび住まいをして住みつくであろう。
活用{び/び/ぶ/ぶる/ぶれ/びよ}
〔動詞の連用形に付いて〕…しづらくなる。…しかねる。…しきれない。
出典伊勢物語 七
「京にありわびて東(あづま)に行きけるに」
[訳] (ある男が)都に住みづらくなって東国へ行ったが。
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