学研全訳古語辞典 |
わた・る 【渡る】
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
①
越える。渡る。
出典伊勢物語 九
「渡守(わたしもり)、『はや舟に乗れ、日も暮れぬ』と言ふに、乗りてわたらむとするに」
[訳] 渡し舟の船頭が「早く舟に乗れ、日も暮れてしまう」と言うので、乗って渡ろうとするが。
②
移動する。移る。
出典土佐日記 一二・二一
「住む館(たち)より出(い)でて、船に乗るべき所へわたる」
[訳] 住んでいる官舎から出て、船に乗ることになっている所へ移る。
③
行く。来る。通り過ぎる。
出典枕草子 心ときめきするもの
「ちご遊ばする所のまへわたる」
[訳] 赤ん坊を遊ばせている前を通り過ぎるの(は心がどきどきする)。
④
(年月が)過ぎる。経過する。(年月を)過ごす。(年月を)送る。暮らす。
出典徒然草 一〇八
「日を消(せう)し、月をわたりて一生を送る、もっとも愚かなり」
[訳] 日を過ごし、月を送って(つまらない)一生を送るのは、実に愚かなことである。
⑤
行き渡る。広く通じる。及ぶ。
出典徒然草 九二
「このいましめ、万事にわたるべし」
[訳] この訓戒は、すべての場合に広く通じるにちがいない。
⑥
〔多く「せ給(たま)ふ」とともに用いて〕いらっしゃる。おられる。▽「あり」の尊敬語。
出典平家物語 四・若宮出家
「高倉の宮の御子(みこ)の宮たちのあまたわたらせ給(たま)ひ候ふなる」
[訳] 高倉の宮のお子様の宮たちが大勢いらっしゃいますそうです。
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
〔動詞の連用形に付いて〕
①
一面に…する。広く…する。
出典更級日記 かどで
「夕霧立ちわたりて」
[訳] 夕霧が一面に立ちこめて。
②
ずっと…しつづける。絶えず…する。
出典伊勢物語 六
「女のえ得(う)まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを」
[訳] 女で自分のものにできそうもなかった人を、何年もずっと求婚しつづけていたのを。
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