学研全訳古語辞典 |
ひ・く 【引く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
後ろへ下がる。しりぞく。退却する。逃げる。
出典平家物語 九・二度之懸
「わづかに五十騎ばかりにうちなされ、ざっとひいてぞ出(い)でたりける」
[訳] たった五十騎くらいまでにやられて、さっと逃げて(城から)出たのであった。◇「退く」とも書く。「ひい」はイ音便。
②
ひきつけられる。
出典徒然草 一七二
「好ける方(かた)に心ひきて」
[訳] 好んでいる方面に心がひきつけられて。◇「惹く」とも書く。
活用{か/き/く/く/け/け}
①
引っぱる。引き寄せる。引き抜く。
出典徒然草 五三
「首もちぎるばかりひきたるに」
[訳] 首もちぎれるほど引っぱったところ。
②
連れる。後に従える。引く。
出典徒然草 一五二
「むく犬の、あさましく老いさらぼひて、毛はげたるをひかせて」
[訳] むく犬で、みっともなく年老いてよぼよぼになって、毛が抜け落ちているのを(従者に)引かせて。◇「曳く」「牽く」とも書く。
③
張りめぐらす。張る。
出典徒然草 一〇
「小坂殿(こさかどの)の棟(むね)に、いつぞや縄をひかれたりしかば」
[訳] 小坂殿の屋根の一番高い所に、いつだったか縄を張りめぐらしておられたから。
④
(弓を)引く。引きしぼる。
出典古今著聞集 九
「意趣なればと思ひて、よくひきて放ちたりければ」
[訳] 意地もあるからと思って、(弓を)よく引きしぼって放ったところ。
⑤
とりはずす。とり去る。
出典平家物語 四・橋合戦
「橋をひいたぞ。あやまちすな」
[訳] 橋板をとりはずしたぞ。けがをするな。
⑥
引きずる。
出典源氏物語 花宴
「葡萄染(えびぞ)めの下襲(したがさね)、裾(しり)いと長くひきて」
[訳] 薄紫色の下襲の裾(すそ)をたいへん長く(出して)引きずって。
⑦
線を書く。
出典枕草子 すさまじきもの
「上にひきたりつる墨など消えて」
[訳] (手紙の封じ目の)上に線を書いてあった墨なども消えて。
⑧
ひきつける。気をひく。注意をひく。誘う。
出典源氏物語 松風
「騒がしきにひかれて出(い)で給(たま)ふ」
[訳] (外が)騒がしいことに気をひきつけられてお出になった。◇「惹く」とも書く。
⑨
引用する。例にあげる。
出典徒然草 二三二
「史書の文(もん)をひきたりし」
[訳] 歴史書の本文を引用したのは。
⑩
平らにする。ならす。
出典徒然草 二〇七
「亀山殿(かめやまどの)たてられんとて、地をひかれけるに」
[訳] 亀山の御殿をお建てになろうとして、地をならされると。
⑪
贈り物を配る。贈る。
出典平家物語 三・金渡
「千両を僧にひき」
[訳] 千両を僧に贈り。
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
引かれる。
出典古事記 神代
「引け鳥のわがひけ往(い)なば」
[訳] 連れだって飛ぶ鳥のように私が(皆に)引かれて去ってしまったら。
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