学研全訳古語辞典 |
やぶ・る 【破る】
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
①
うち砕く。こわす。裂く。
出典宇治拾遺 二・六
「隔ての垣をやぶりて、それより出(い)だし奉らん」
[訳] 仕切りの垣根をこわして、そこから(死体を)お出し申し上げよう。
②
傷つける。損なう。害する。
出典徒然草 一二九
「身をやぶるよりも、心をいたましむるは、人をそこなふことなほ甚だし」
[訳] 一つの事を必ずなしとげようと思うならば、ほかの事がだめになることを嘆いてはならない。
③
突破する。負かす。うち破る。
出典平家物語 九・木曾最期
「そこをやぶって行くほどに、土肥次郎実平(とひのじらうさねひら)二千余騎でささへたり」
[訳] そこを突破して行くと、(次には)土肥次郎実平が二千余騎で防ぎとめている。◇「やぶっ」は促音便。
④
無視する。犯す。破る。乱す。
出典徒然草 一七五
「万(よろづ)の戒をやぶりて、地獄に堕(お)つべし」
[訳] (酒を飲むと)多くの(仏道の)いましめを犯して、地獄にきっと落ちるにちがいない。
活用{れ/れ/る/るる/るれ/れよ}
①
こわれる。砕ける。破れる。
出典徒然草 一八四
「物はやぶれたる所ばかりを修理(しゆり)して用ゐることぞ」
[訳] 物はこわれている所だけをなおして使用するものだ。
②
傷つく。損なわれる。
出典十訓抄 一
「隋侯(ずいこう)やぶれたる蛇を見て」
[訳] 隋の王さまは傷ついている蛇を見て。
③
成り立たなくなる。だめになる。
出典徒然草 一八八
「一事を必ずなさんと思はば、他の事のやぶるるをもいたむべからず」
[訳] 一つの事を必ずなしとげようと思うならば、ほかの事がだめになることを嘆いてはならない。
④
負ける。敗北する。敗れる。
出典増鏡 新島守
「御方(みかた)の軍(いくさ)やぶれぬ」
[訳] 天皇方の軍は敗北した。
注意
現代語「やぶる」に相当する古語は「破(や)る」。現代語の「ひきちぎる」意ではほとんど使わない。
や・る 【破る】
活用{れ/れ/る/るる/るれ/れよ}
破(やぶ)れる。裂ける。こわれる。
出典日本書紀 武烈
「なゐがより来(こ)ばやれむ柴垣(しばかき)」
[訳] 地震がゆれ動いて来たらこわれるであろう柴垣。
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
破(やぶ)る。引きちぎる。うちこわす。
出典土佐日記 二・一六
「とまれかうまれ、とくやりてむ」
[訳] とにかく、早く破ってしまおう。
わ・る 【割る・破る】
活用{れ/れ/る/るる/るれ/れよ}
①
割れる。裂ける。砕ける。壊れる。
出典枕草子 月のいとあかきに
「水晶(すいさう)などのわれたるやうに」
[訳] 水晶などが砕けたように。
②
分かれる。離れ離れになる。
出典詞花集 恋上
「瀬を早み岩にせかるる滝川(たきがは)のわれても末に逢(あ)はむとぞ思ふ」
[訳] ⇒せをはやみ…。
③
思い乱れる。
出典万葉集 二八九四
「わが胸はわれてくだけて利心(とごころ)もなし」
[訳] 私の心は思い乱れて悩んで、しっかりした心もない。
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
①
割る。裂く。砕く。壊す。
出典万葉集 四一九
「石戸(いはと)わる手力(たぢから)もがも」
[訳] 岩の戸を割る腕力があったらいいなあ。
②
分ける。分配する。
出典宇津保物語 藤原の君
「女房の曹司(ざうし)には、廊のめぐりにしたるをなむ、わりつつ賜(たま)へりける」
[訳] 女房の部屋には、渡り廊下のまわりに造ったのを、分配してお与えになった。
③
押し分ける。かき分ける。
出典平治物語 中
「『寄りあへや、組まん』とて、真中(まんなか)にわって入り」
[訳] 「近寄れ、組み討ちしよう」と言って、(悪源太は)真ん中に押し分けて入って。
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