学研全訳古語辞典 |
そ-こ 【其処・其所】
①
そこ。▽中称の指示代名詞。相手に近い場所をさす。
出典古今集 雑体
「うちわたす遠方人(をちかたびと)に物申す我そのそこに白く咲けるは何の花ぞも」
[訳] はるかに見渡す遠くにいる方に申し上げる(=尋ねたい)、私は。そのそこに白く咲いているのは何の花であるかと。
②
そこ。その場所。▽中称の指示代名詞。以前に話題になった場所をさす。
出典伊勢物語 二四
「清水のあるところに伏しにけり。そこなりける岩に」
[訳] (女は)清水のあるところに倒れてしまった。そこにあった岩に。
③
その事。その点。▽中称の指示代名詞。以前に話題になった内容をさす。
出典万葉集 一六
「黄葉(もみつ)をば取りてそしのふ青きをば置きてそ嘆くそこし恨めし」
[訳] 黄色く色づいた葉を手に取って賞美し、色づかない青い葉はそのままに置いては嘆く。その点が残念なのだ。
④
どこそこ。どこ。▽中称の指示代名詞。はっきりしない場所をさす。
出典伊勢物語 七三
「そこにはありと聞けど、消息(せうそこ)をだに言ふべくもあらぬ女のあたりを思ひける」
[訳] どこそこにいるとは聞くが、手紙ですら思いを述べることもできない女のことを思って(詠んだ歌)。
⑤
お前。君。あなた。▽対称の人称代名詞。目の前にいる、自分と同等かそれ以下の相手をさす。
出典今昔物語集 二八・四二
「そこの上には障子の倒れかかりたるぞ」
[訳] お前の上に障子が倒れかかったのだよ。
参考
「そ」は中称の指示代名詞で、「こ」は場所の意味の接尾語。⑤の対称の人称代名詞は、指示代名詞の「そこ」から派生した語。
そこ 【底】
①
ものの最下部。
②
地。地底。
③
奥底。極み。最も奥深いところ。
出典千載集 夏
「ほととぎすなほ初声を忍ぶ山夕ゐる雲のそこに鳴くなり」
[訳] ほととぎすがその初声をいまだに忍び音で、信夫山に夕方かかる雲の奥底で鳴いていることよ。
④
(心の)奥。心底。
出典源氏物語 若菜下
「心のそこゆかしき様(さま)して」
[訳] 心の奥が知りたいような(立派な)ようすをして。
⑤
底力。
出典源平盛衰記 三六
「鎌倉殿の賜(た)びたる薄墨にも、そこはまさりてこそあるらめ」
[訳] (義経の乗馬は)鎌倉殿の下さった薄墨(という馬)に比べても、底力はまさっているだろう。
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