学研全訳古語辞典 |
も
《接続》動詞と動詞型活用助動詞の連体形に付く。
①
〔逆接の確定条件〕…けれども。…のに。…が。
出典源氏物語 橋姫
「内裏(うち)へ参らむとおぼしつるも、出(い)で立たれず」
[訳] (薫(かおる)は)宮中へ参上しようとお思いになったのに、出掛けられない。
②
〔逆接の仮定条件〕…ても。…としても。
出典万葉集 五二七
「来むといふも来ぬ時あるを来じといふを来むとは待たじ」
[訳] ⇒こむといふも…。
も
《接続》体言、活用語の連用形・連体形、助詞など、種々の語に付く。
①
〔列挙・並列〕…も…も。
出典伊勢物語 二三
「男も女も恥ぢかはしてありけれど」
[訳] 男も女も互いに恥ずかしがり合っていたけれども。
②
〔添加〕…もまた。…も。
出典土佐日記 二・一六
「家に預けたりつる人の心も荒れたるなりけり」
[訳] (留守中)家に預けておいた人(=家を託してあった留守番の人)の心もまた(この家と同様に)すさんでいたのだ。
③
〔類推〕…でも。…さえも。
出典竹取物語 かぐや姫の生ひ立ち
「帳(ちやう)の内よりも出(い)ださず、いつき養ふ」
[訳] (翁(おきな)はかぐや姫を)垂れぎぬの中からさえも出さないで、大切に養い育てる。
④
〔最小限の希望〕せめて…だけでも。
出典万葉集 四二〇三
「家に行きて何を語らむあしひきの(=枕詞(まくらことば))山ほととぎす一声も鳴け」
[訳] 家に帰って何を(土産話として)語ろうか。山ほととぎすよ、せめて一声だけでも鳴いておくれ。
⑤
〔総括〕…もみな。▽不定の意を表す語に付いて。
出典枕草子 うつくしきもの
「何も何も、小さきものは皆うつくし」
[訳] なんでもかんでも、小さいものは皆かわいらしい。
⑥
〔強意〕…もまあ。▽感動をこめて意味を強める。
出典伊勢物語 九
「限りなく遠くも来にけるかな」
[訳] この上もなく遠くまでもまあ、来てしまったものだなあ。
語法
係助詞「ぞ」「こそ」が付いた、「もぞ」「もこそ」は不安や懸念の意を表すことが多い。
参考
「も」は、文を言い切る力が文末にかかっていって、文末の述語は終止形となる。このような働きがあるところから、「も」は係助詞とされる(「は」も同様である)。このときの結びは終止形で、普通の文の言い切りの形(終止形)と同じである。この点が、連体形結び・已然形結びになる他の係助詞「ぞ」「なむ」「や」「か」「こそ」とは異なっている。
も
《接続》文末、文節末の種々の語に付く。〔詠嘆〕…なあ。…ね。…ことよ。
出典万葉集 四四九
「妹(いも)と来(こ)し敏馬(みぬめ)の崎を帰るさに独りして見れば涙ぐましも」
[訳] ⇒いもとこし…。◆上代語。
も
《接続》活用語の未然形に付く。
活用{○/○/も/も/○/○}
…だろう。…(し)よう。
出典万葉集 四三五五
「よそにのみ見てや渡らも難波潟(なにはがた)雲居(くもゐ)に見ゆる島ならなくに」
[訳] (有名な難波潟を)遠くに見るだけで(九州に)わたるのだろうか、難波潟ははるかに離れた所に見える島というわけではないのに。◆推量の助動詞「む」にあたる上代の東国方言。
も 【喪】
①
人の死後、その人を弔うために、親族が一定の期間家にこもって交際を避け、慎み深く過ごすこと。
②
わざわい。凶事。
出典万葉集 三七一七
「旅にてももなく早(はや)来(こ)と」
[訳] 旅先でもわざわいにあわず、早く帰って来てと。
も 【藻】
水中に生える植物の総称。
も 【裳】
①
上代、女性が腰から下を覆うようにまとった衣服。「裙(くん)」とも。◇「裙」とも書く。
②
平安時代、成人した女性が正装のときに、最後に後ろ腰につけて後方へ長く引き垂らすようにまとった衣服。多くのひだがあり、縫い取りをして装飾とした。
出典竹取物語 かぐや姫の生ひ立ち
「よき程なる人になりぬれば、…髪上げさせ、も着す」
[訳] (かぐや姫が)一人前の大人になったので、…髪上げをさせ、裳を着せる。
③
僧が、腰から下にまとった衣服。
参考
②の用例は、平安時代の貴族の女子の成人の儀式である「髪上(かみあ)げ」と「裳着(もぎ)」をいっている。⇒もぎ
も 【面】
表面。方角。◆「おも(面)」の変化した語。
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