学研全訳古語辞典 |
あだ・なり 【徒なり】
活用{なら/なり・に/なり/なる/なれ/なれ}
①
はかない。もろい。
出典徒然草 一三七
「会はでやみにし憂(う)さを思ひ、あだなる契りをかこち」
[訳] 会わないで終わってしまったつらさを思い、はかない約束を恨み嘆き。
②
誠実でない。浮気だ。
出典紫式部日記 消息文
「そのあだになりぬる人の果て、いかでかはよく侍(はべ)らむ」
[訳] そういう不誠実な性質になってしまった人(=清少納言)の末路が、どうしてよいでありましょうか、よいはずがありません。[反対語] 忠実(まめ)なり。
③
疎略だ。
出典源氏物語 葵
「確かに御枕上(まくらがみ)に参らすべき祝ひの物にて侍(はべ)る。あなかしこ、あだにな」
[訳] 確かに枕もとに差し上げなければならない祝いのものです。決して疎略に扱ってはいけません。
④
無駄だ。無用だ。
出典堤中納言 虫めづる姫君
「蝶(てふ)になりぬれば、いともそでにて、あだになりぬるをや」
[訳] (絹をとる蚕(かいこ)が)蝶になってしまうと、(人は)まったくおろそかにして無用になってしまうのよね。
ただ・なり 【直なり・徒なり】
活用{なら/なり・に/なり/なる/なれ/なれ}
①
直接だ。じかだ。まっすぐだ。
出典万葉集 四九六
「み熊野(くまの)の浦の浜木綿(はまゆふ)百重(ももへ)なす心は思(も)へどただに逢(あ)はぬかも」
[訳] ⇒みくまのの…。
②
生地のままだ。ありのままだ。
出典源氏物語 宿木
「ただなる絹綾(きぬあや)など取り具し給(たま)ふ」
[訳] (染めていない)生地のままの模様のある絹織物をおそろえになられる。
③
普通だ。あたりまえだ。
出典枕草子 うらやましげなるもの
「ただなるところには目にもとまるまじきに」
[訳] (女の言葉は)普通の所では目にもとまるまいに。
④
何もせずにそのままである。何事もない。
出典源氏物語 藤裏葉
「ただに見過ぐさむこと惜しき盛りなるに」
[訳] 何もせずにそのまま見過ごしてしまうには惜しい花盛りなので。
⑤
むなしい。何の効果もない。
出典大鏡 道長上
「ただにて帰り参りて侍(はべ)らむは、証(さう)候(さぶら)ふまじきにより」
[訳] むなしく(手ぶらで)帰って参りましたとしたら、行ったという証拠がございますまいから。
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