学研全訳古語辞典 |
な・し 【無し】
活用{(く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ}
①
ない。いない。存在しない。
出典竹取物語 かぐや姫の昇天
「格子どもも、人はなくして開きぬ」
[訳] 格子なども人はいないのに開いてしまった。
②
留守だ。不在だ。
出典古今集 雑上
「老いらくの来(こ)むと知りせば門(かど)さしてなしと答へてあはざらましを」
[訳] 老いることがやって来るだろうと知っていたならば、門を閉ざして留守だと答えて会わなかったろうのに。
③
死んでいる。生きていない。
出典徒然草 三〇
「人のなきあとばかり悲しきはなし」
[訳] 人が死んだ後ほど悲しいものはない。◇「亡し」とも書く。
④
世間から見捨てられている。ないも同然だ。
出典源氏物語 絵合
「中ごろなきになりて沈みたりし憂へにかはりて」
[訳] 少し昔世間から見捨てられた状態になって落ちぶれてしまった嘆きにかわって。
⑤
またとない。無類だ。
出典十訓抄 一〇
「なき好き者にて、朝夕琴をさし置くことなかりけり」
[訳] またとない風流人で、朝夕琴を離しておくことがなかった。
⑥
正体がない。正気を失っている。
出典源氏物語 賢木
「宮はなかばなきやうなる御気色(みけしき)の、心苦しければ」
[訳] (藤壺(ふじつぼ)の)宮は半ば正気を失っているようなごようすで(源氏にも)いたわしく感じられて。
活用{(く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ}
〔形容詞・形容動詞、およびそれと同型の活用をする助動詞の連用形、またはそれに係助詞が付いた形に付いて〕…ない。▽打消の意を表す。
出典土佐日記 一・二一
「この言葉、何とにはなけれども、もの言ふやうにぞ聞こえたる」
[訳] この言葉は、どうということはないが、気のきいたことを言うように聞こえた。
注意
[一]①では、現代語の「ない」は物についていうが、古語「なし」は人にも物にもいう。
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