学研全訳古語辞典 |
あなた 【彼方・貴方】
①
あちら。むこうの方。▽遠称の指示代名詞。空間的に見た遠くをさす。
出典伊勢物語 八二
「山崎のあなたに、水無瀬(みなせ)といふ所に宮ありけり」
[訳] 山崎のむこうの方で、水無瀬という所に御殿があった。
②
以前。過去。▽遠称の指示代名詞。時間をさす。
出典枕草子 成信の中将は
「昨夜(よべ)も、昨日(きのふ)の夜も、そがあなたの夜も、すべてこのごろうちしきり見ゆる人の」
[訳] 昨夜も、一昨夜も、またその以前の夜も、ずっとこのごろしきりに現れる人が。
③
将来。これから先。▽遠称の指示代名詞。時間をさす。
出典源氏物語 若菜上
「目の前に見えぬあなたのことはおぼつかなくこそ思ひわたりつれ」
[訳] 目に見えない将来のことは不安に思い続けてきたのだったよ。
④
あの方。あちらの方。▽他称の人称代名詞。対等・目上の人を、尊敬の意をこめてさす。
出典落窪物語 一
「この落窪(おちくぼ)の君のあなたにのたまふことに従はず」
[訳] この落窪の君が、あの方(=継母(ままはは)である北の方)のおっしゃることに従わないで。
⑤
あなたさま。▽対称の人称代名詞。対等・目上の人に対して尊敬の意を含んで用いる。
出典浮世風呂 滑稽
「あなたがお屋敷においで遊ばす時分は」
[訳] あなたさまがお屋敷においでなさったころは。◇近世語。
参考
④は①の遠称の指示代名詞からの転用。④から、⑤の対称の人称代名詞が発生する。⑤は現代語の「あなた」より敬意が高い。
おち 【彼方・遠】
⇒をち
おちかた 【彼方・遠方】
⇒をちかた
か-な-た 【彼方】
あちら。▽遠称の指示代名詞。
出典徒然草 一一
「かなたの庭に」
をち 【彼方・遠】
①
遠く隔たった場所。遠方。かなた。
出典古今集 離別
「白雲の八重(やへ)に重なるをちにても」
[訳] 白雲が幾重にも重なる遠方であっても。[反対語] 此方(こち)。
②
それより以前。昔。
出典拾遺集 雑賀
「昨日よりをちをば知らず」
[訳] 昨日よりそれ以前のことはわからないが。
③
それより以後。将来。
出典万葉集 三七二六
「このころは恋ひつつもあらむ玉匣(たまくしげ)(=枕詞(まくらことば))明けてをちよりすべなかるべし」
[訳] この数日は恋しながらもこうしているでしょう。夜が明けた後からは(あなたがいなくなって)どうにもしようがないでしょう。
をち-かた 【彼方・遠方】
遠くの方。向こうの方。あちら。
出典大鏡 伊尹
「をちかたに所々煙の立つを御覧じて」
[訳] 遠くの方にあちらこちら煙が立ちのぼっているのをご覧になって。[反対語] この方(かた)。
をと 【彼方・遠】
「をち(彼方)」に同じ。
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