学研全訳古語辞典 |
お・る 【降る・下る】
活用{り/り/る/るる/るれ/りよ}
①
(高い所から)おりる。
出典徒然草 一〇九
「かばかりになりては、飛び降るるともおりなん」
[訳] これくらい(の高さ)になったからには、飛びおりてもおりることができるだろう。
②
(馬・車などから)下りる。
出典更級日記 子忍びの森
「馬よりおりて、そこにふた時なむながめられし」
[訳] 馬から下りて、そこで四時間ほど(=かなり長い間)物思いに沈まないではいられなかった。
③
退出する。下がる。
出典伊勢物語 六五
「曹司(ざうし)におり給(たま)へれば」
[訳] (女が)自分の部屋に下がりなさっていると。
④
退位する。
出典大鏡 序
「おのれは水尾(みづのを)の帝(みかど)のおりおはします年の、正月(しやうぐわち)望(もち)の日に生まれて侍(はべ)れば」
[訳] 私は水尾の帝(=清和天皇)がご退位あそばす年(=貞観(じようがん)十八年)の、正月十五日に生まれておりますので。
⑤
(神霊が)乗り移る。
出典平家物語 一・願立
「山王おりさせ給(たま)ひて、やうやうの御託宣こそ恐ろしけれ」
[訳] 山王が(巫女(みこ)に)お乗り移りになられて、お告げがあったのは恐ろしいことである。
ふ・る 【降る】
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
①
雨や雪が降る。
出典古今集 冬
「朝ぼらけ有り明けの月と見るまでに吉野の里にふれる白雪(しらゆき)」
[訳] ⇒あさぼらけありあけのつきと…。
②
涙が流れる。▽比喩(ひゆ)的な用法。
出典源氏物語 桐壺
「鈴虫の声の限りを尽くしても長き夜あかずふる涙かな」
[訳] ⇒すずむしの…。
くだ・る 【下る・降る】
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
①
おりる。(下流に)移る。くだる。
出典枕草子 うらやましげなるもの
「『…』と道に会ひたる人にうち言ひてくだり行きしこそ」
[訳] 「…」と道で出会った人に言って山をおりていったのは。
②
(雨や雪が)降る。
出典蜻蛉日記 下
「雨、昨日のゆふべよりくだり」
[訳] 雨がきのうの夕方から降り。
③
(都から地方に)行く。下向する。
出典更級日記 子忍びの森
「まづ胸あくばかりかしづきたてて、ゐてくだりて」
[訳] まず気持ちが晴れるほどあなたをことさら大切に育てあげて、伴って任地に下向して。
④
(京都で)南へ行く。▽内裏(だいり)が北にあることから。
出典大鏡 道長下
「西の大宮よりくだらせ給(たま)ひて」
[訳] 西の大宮大路を南に行っていらっしゃって。
⑤
下賜(かし)される。与えられる。▽上位の者から下位の者へ物が与えられる。
出典源氏物語 若菜上
「御かはらけくだり、若菜の御羹(あつもの)まゐる」
[訳] (源氏から)お杯が下賜され、源氏は若菜のお吸い物を召し上がる。
⑥
言い渡される。▽上位の者から下位の者へ伝えられる。
出典更級日記 竹芝寺
「『…』よしの宣旨(せんじ)くだりにければ」
[訳] 「…」という旨の宣旨が言い渡されたので。
⑦
時が移る。(ある時刻を)過ぎる。
出典源氏物語 藤裏葉
「未(ひつじ)くだる程に」
[訳] 午後二時を過ぎるころに。
⑧
(身分・品性・才能が)低くなる。劣る。落ちぶれる。
出典枕草子 懸想人にて来たるは
「それよりくだれる際(きは)は、皆さやうにぞある」
[訳] それよりも身分が低くなっている人々(の供人)は、みなこんな具合だ。
⑨
降伏する。
出典平家物語 七・木曾山門牒状
「攻むれば、必ずくだる」
[訳] 攻めると、必ず降伏する。
⑩
へりくだる。謙遜(けんそん)する。
出典雨月物語 吉備津の釜
「大人(うし)のくだり給ふこと、甚だし」
[訳] あなたが謙遜しなさることは、普通以上だ。
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