学研全訳古語辞典 |
い・る 【入る】
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
①
はいる。はいってゆく。
出典伊勢物語 九
「宇津の山に至りて、我がいらむとする道は、いと暗う細きに」
[訳] 宇津の山について、自分たちがはいってゆこうとする道は、たいそう暗く細いうえに。
②
沈む。隠れる。没する。
出典枕草子 淑景舎、東宮に
「日のいるほどに起きさせ給(たま)ひて」
[訳] (天皇は)日が沈むころにお起きになられて。
③
(宮中・仏門などに)はいる。
出典徒然草 五八
「一度(ひとたび)道にいりて世を厭(いと)はん人」
[訳] 一度仏道にはいって世俗を嫌い離れようとするような人は。
④
至る。なる。達する。
出典徒然草 一九一
「『夜にいりてものの映えなし』と言ふ人、いとくちをし」
[訳] 「夜になっては物の見ばえがしない」と言う人は、とても情けない。
⑤
(心に)しみる。はいりこむ。
出典万葉集 二九七七
「何ゆゑか思はずあらむ紐(ひも)の緒の(=枕詞(まくらことば))心にいりて恋しきものを」
[訳] どうして(あの人のことを)思わないでいられようか、いや思わずにいられない。心にしみて恋しくてならないのに。
⑥
必要になる。
出典源氏物語 梅枝
「これは暇(いとま)いりぬべきものかな」
[訳] これは(書くのに)時間が必要だったろうなあ。◇「要る」とも書く。
⑦
〔尊敬語を伴って〕いらっしゃる。おいでになる。▽「いく」「来(く)」などの尊敬語となる。
出典源氏物語 賢木
「いらせ給(たま)ひけるを珍しきことと承るに」
[訳] (中宮が春宮(とうぐう)御所へ)いらっしゃったのを珍しいことと伺うにつけ。
活用{れ/れ/る/るる/るれ/れよ}
①
入らせる。入れる。
出典古今集 雑上・伊勢物語八二
「あかなくにまだきも月の隠るるか山の端(は)にげていれずもあらなむ」
[訳] ⇒あかなくに…。
②
含める。加える。
出典枕草子 中納言まゐり給ひて
「かやうの事こそは、かたはらいたきことのうちにいれつべけれど」
[訳] こういうことは、きまりが悪いことの中に加えてしまうべきだけれども。
③
こめる。うちこむ。
出典古今集 仮名序
「力をもいれずして天地(あめつち)を動かし」
[訳] (和歌は)力をこめないで天地を動かし。
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
〔動詞の連用形に付いて〕
①
すっかり…(のように)なる。ほとんど…(に)なる。
出典宇治拾遺 一・一二
「幼き人は寝いり給(たま)ひにけり」
[訳] 幼い人はすっかり寝てしまわれたのだ。
②
熱心に…する。ひたすら…する。
出典源氏物語 夕霧
「この人も、まして、いみじう泣きいりつつ」
[訳] この人も、(夕霧より)なおさら、たいへんひどく泣きながら。
活用{れ/れ/る/るる/るれ/れよ}
〔動詞の連用形に付いて〕中に入れる、受け入れるの意を表す。
出典源氏物語 帚木
「人も聞きいれず」
[訳] 供の人は聞き入れない。
いる 【射る】
活用{い/い/いる/いる/いれ/いよ}
弓に矢をつがえて放つ。矢を射当てる。射る。
出典徒然草 九二
「ある人、弓いる事を習ふに」
[訳] ある人が弓を射ることを習うときに。
注意
ヤ行上一段活用の動詞は「射る」「沃(い)る」「鋳(い)る」の三語だけである。
いる 【居る・率る】
⇒ゐる
いる 【沃る】
活用{い/い/いる/いる/いれ/いよ}
そそぐ。浴びせる。
出典平家物語 六・入道死去
「板に水をいて」
[訳] 板に水をそそいで。⇒い(射)る
注意
い・る 【煎る・炒る】
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
水分がなくなるまで火であぶる。煮つめる。
出典徒然草 一七五
「冬せばき所にて、火にて物いりなどして」
[訳] 冬狭い所で火で何か物をあぶるなどして。
いる 【鋳る】
活用{い/い/いる/いる/いれ/いよ}
金属を溶かし、鋳型に入れて器物を造る。鋳造する。
出典更級日記 鏡のかげ
「母一尺の鏡をいさせて」
[訳] 母は直径一尺(=約三〇センチメートル)の鏡を造らせて。⇒い(射)る
注意
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