学研全訳古語辞典 |
さ・す
【差す】
活用{さ/し/す/す/せ/せ}
①
(光が)当たる。
出典万葉集 一五
「わたつみの豊旗雲(とよはたくも)に入り日さし」
[訳] ⇒わたつみの…。◇「射す」とも書く。
②
芽が出る。枝が伸びる。
出典万葉集 九〇七
「瑞枝(みづえ)さし繁(しじ)に生ひたる栂(とが)の木の」
[訳] みずみずしい枝が伸びて、すき間なく繁っている栂の木のように。
③
(雲が)わく。わき出る。
出典万葉集 四三〇
「八雲(やくも)さす」
[訳] たくさんの雲がわき出る。
④
(潮が)満ちる。
出典増鏡 新島守
「高潮などのさしくるやうにて」
[訳] 高潮などが満ちてくるようで。
活用{さ/し/す/す/せ/せ}
(一)
【刺す・挿す】
①
突き刺す。刺す。
出典万葉集 四三五〇
「阿須波(あすは)の神に小柴(こしば)さし吾(あれ)は斎(いは)はむ」
[訳] 屋敷の神に対し小柴を地に刺して(いのり)、私は清めごとをしよう。
②
食いつく。かむ。
出典徒然草 九六
「くちばみにさされたる人」
[訳] まむしにかまれた人。
③
間に差し挟む。
出典枕草子 清涼殿の丑寅のすみの
「御草子に夾算(けふさん)さして、大殿(おほとの)ごもりぬるも」
[訳] ご本にしおりを挟んでおやすみになられたのも。
④
突き立てる。さす。
出典土佐日記 一二・二七
「棹(さを)させど底(そこひ)も知らぬわたつみの」
[訳] 棹を突き立てても果てもわからない大海のように。
⑤
縫う。縫いつける。
出典古今集 雑体
「ふぢばかまつづりさせてふきりぎりす鳴く」
[訳] ふじばかまをつづって縫えというこおろぎが鳴く。
(二)
【注す・点す】
①
ともす。
出典徒然草 二一五
「紙燭(しそく)さして、くまぐまを求めしほどに」
[訳] 紙燭をともして、すみずみまで捜していたところ。
②
(酒を)つぐ。
出典伊勢物語 八二
「歌詠みて杯(さかづき)はさせ」
[訳] 歌を詠んでから、杯はさしなさい。
(三)
【指す・差す】
①
目指す。向かって進む。
出典徒然草 五〇
「四条(しでう)より上さまの人、みな北をさして走る」
[訳] 四条から上の方に住んでいる人は、みんなが北に向かって走っていく。
②
指名する。
出典宇津保物語 菊の宴
「宇佐(うさ)の使ひにさされて下るに」
[訳] 宇佐神社への使いに指名されて下向するときに。
③
指定する。
出典徒然草 一八八
「日をささぬ事なれば」
[訳] 日を決めていないことだから。
④
掲げ持つ。かざす。差し掛ける。
出典枕草子 五月の御精進のほど
「一条殿より傘(かさ)持(も)て来たるをささせて」
[訳] 一条殿から傘を持って来たのを(侍に)差し掛けさせて。
さす
《接続》四段・ナ変・ラ変以外の動詞の未然形に付く。
①
〔使役〕…せる。…させる。
出典枕草子 雪のいと高う降りたるを
「御格子(みかうし)上げさせて」
[訳] (女房に)御格子を上げさせて。
②
〔尊敬〕お…になられる。…なさる。…あそばす。▽尊敬の意を表す語とともに用いて、より高い尊敬の意を表す。
出典源氏物語 夕顔
「ものおぢをなむわりなくせさせ給(たま)ふ御本性(ごほんじやう)にて」
[訳] (夕顔は)怖がることをむやみにしなさるご性格で。
③
〔受身〕…られる。
出典平家物語 九・宇治川先陣
「畠山(はたけやま)、馬の額を篦深(のぶか)に射させて」
[訳] 畠山は、(乗っていた)馬の額を深々と射られて。
語法
(1)尊敬の「さす」(主として中古・中世)②の意味は、他の尊敬語が併せ用いられた場合に限られる。そのうち、「させ給(たま)ふ」「させおはします」が地の文に用いられたとき、これは最高敬語といわれ、天皇・皇后や、それに準ずる人の動作をいうのに用いられる。⇒最高敬語(2)受身の「さす」③は「軍記物語」の合戦の場面に見られる特殊な用法で、武士が「…される」という受身の表現を嫌うあまり、「…させてやる」という態度を示したもので、「武者(むしや)言葉」ともいう。
注意
(1)単独で用いられる「さす」は使役である。(2)「させ給(たま)ふ」には二とおりあり、「…に」に当たる受身の対象の人物が文脈上存在する場合は使役、そうでない場合は最高敬語(二重敬語)と見てよい。⇒させたまふ
参考
「さす」と同じ意味・用法の助動詞「す」は四段・ナ変・ラ変動詞の未然形に付く。
-さ・す
①
〔他動詞の連用形に付いて〕…しかける。…し残す。▽その動作や状態を中断する意を表す。
出典伊勢物語 一〇四
「見さして帰り給(たま)ひにけり」
[訳] (祭り)見物しかけてお帰りになったということだ。
②
〔自動詞の連用形に付いて〕…しかかる。▽その動作や状態が中途である意を表す。
出典源氏物語 幻
「花はほのかに開(あ)けさしつつ」
[訳] (紅梅の)花はわずかに開きかけて。
参考
①は、「言ひ止(さ)す」などのように、「止す」と当てることもある。
さ・す 【鎖す】
活用{さ/し/す/す/せ/せ}
かぎなどをかける。門や戸を閉ざす。
出典源氏物語 夕顔
「御車入るべき門(かど)はさしたりければ」
[訳] お車が引き入れられるはずの門はかぎなどをかけてあったので。
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