学研全訳古語辞典 |
と・し
活用{(く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ}
(一)
【利し・鋭し】よく切れる。するどい。鋭利だ。
出典万葉集 二四九八
「剣太刀(つるぎたち)諸刃(もろは)のときに足踏みて」
[訳] 剣の両刃のよく切れるのを足で踏んで。
(二)
【疾し】
①
時期が早い。
出典古今集 春上
「春やとき花や遅きと聞き分かむ鶯(うぐひす)だにも鳴かずもあるかな」
[訳] 春が来るのが早いのか、花の咲くのが遅いのかとその声を聞いて判断しようと思うそのうぐいすさえも鳴かないでいることよ。
②
速度が速い。速く激しい。
出典万葉集 一一〇一
「巻向(まきむく)の川音(かはと)高しも嵐かもとき」
[訳] 巻向の川の流れの音が大きいなあ。嵐が激しいのか。
(三)
【敏し】
①
すばしこい。機敏だ。
出典徒然草 一八八
「とき時は則(すなはち)功あり」
[訳] (行動が)機敏なときは、必ず効果がある。
②
鋭い。鋭敏だ。
出典枕草子 大蔵卿ばかり
「大蔵卿(おほくらきやう)ばかり耳とき人はなし」
[訳] 大蔵卿ほど耳の鋭敏な人はいない。
とし 【年・歳】
①
穀物。特に稲。稲の実り。
出典万葉集 四一二四
「わが欲(ほ)りし雨は降り来(き)ぬかくしあらば言挙(ことあ)げせずともとしは栄えむ」
[訳] 私が望んでいた雨は降ってきた。だから言葉に出して願い事をしなくても稲の実りは豊かであろう。
②
(暦の)年。年数。年月。
出典徒然草 一九
「としの暮れはてて、人ごとに急ぎあへるころぞ、またなくあはれなる」
[訳] 一年が終わってしまって、どの人も急ぎあっているその時は、またとないほど趣があるものである。
③
年齢。
出典徒然草 五二
「仁和寺(にんなじ)にある法師、とし寄るまで、石清水(いはしみづ)を拝まざりければ」
[訳] 仁和寺にいたある法師が、年をとるまで石清水八幡宮(はちまんぐう)を参拝したことがなかったので。
④
季節。時候。
出典宇津保物語 梅の花笠
「今年はあやしくとし急ぎて、遅き花とく咲き」
[訳] 今年は不思議に季節が早く移って、遅く咲くはずの花が早く咲き。
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