学研全訳古語辞典 |
かしこ・し
活用{(く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ}
(一)
【畏し】
①
もったいない。恐れ多い。
出典更級日記 竹芝寺
「かしこくおそろしと思ひけれど、さるべきにやありけむ」
[訳] もったいなく恐ろしいと思ったけれど、そうなる運命だったのだろうか。
②
恐ろしい。恐るべきだ。
出典万葉集 一二三二
「大海の波はかしこし」
[訳] 大海の波は恐ろしい。
③
高貴だ。身分が高い。貴い。
出典源氏物語 薄雲
「かしこき御身のほどと聞こゆる中にも」
[訳] 高貴なご身分と申し上げる中でも。
(二)
【賢し】
①
賢い。賢明だ。分別がある。
出典源氏物語 桐壺
「世に知らず、聡(さと)うかしこくおはすれば」
[訳] (源氏は)世間に比類がないほど、聡明(そうめい)で賢くいらっしゃるので。
②
すぐれている。立派だ。
出典源氏物語 若紫
「北山になむ、なにがし寺といふ所にかしこき行ひ人侍(はべ)る」
[訳] 北山の、何とか寺という所に、すぐれた行者がおります。
③
上手だ。大変よい。巧みだ。
出典枕草子 ねたきもの
「とみの物縫ふに、かしこう縫ひつと思ふに」
[訳] 急ぎの仕立て物を縫うときに、上手に縫ったと思ったのに。◇「かしこう」はウ音便。
④
都合がよい。ありがたい。
出典源氏物語 若菜上
「風吹かず、かしこき日なり」
[訳] 風も吹かず、(蹴鞠(けまり)には)都合がよい日だ。
⑤
〔「かしこく」の形で〕盛大に。大いに。非常に。
出典竹取物語 かぐや姫の生ひ立ち
「男はうけきらはず呼び集(つど)へて、いとかしこく遊ぶ」
[訳] 男はだれかれの区別なく呼び集めて、たいそう盛大に管弦の遊びをする。
参考
「かしこし」と「ゆゆし」の違い 「かしこし」が畏敬(いけい)という肯定的な気持ちを持っているのに対し、類義語の「ゆゆし」は、不吉・不浄な物を忌み避ける否定的な気持ちを持っている。
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