学研全訳古語辞典 |
に
《接続》体言、活用語の連体形に付く。⑥⑯は連用形に付く。
①
〔場所〕…で。…に。
出典土佐日記 一二・二三
「この人、国にかならずしも言ひ使ふものにあらざなり」
[訳] この人は、国府で必ずしも召し使う者でもないようだ。
②
〔時・場合〕…に。…ときに。
出典土佐日記 一二・二一
「戌(いぬ)の時に門出す」
[訳] 午後八時ごろに出発する。
③
〔動作や作用の帰着点〕…に。
出典伊勢物語 九
「行き行きて、駿河(するが)の国にいたりぬ」
[訳] どんどん進んで行って、駿河の国(静岡県)に着いた。
④
〔動作や作用の方向〕…の方に。…に。
出典更級日記 竹芝寺
「南風吹けば北に靡(なび)き」
[訳] 南風が吹くと北の方になびき。
⑤
〔動作や作用の対象〕…に。
出典土佐日記 一二・二一
「その由、いささか物に書き付く」
[訳] その(旅の)事情を、少しばかり紙に書き付ける。
⑥
〔動作や作用の目的〕…ために。
出典伊勢物語 九
「あづまの方に住むべき国求めにとて行きけり」
[訳] 東国の方に住むにふさわしい国を探し求めるためにと思って出かけていった。
⑦
〔動作や作用の原因・理由〕…により。…によって。…のために。
出典徒然草 一九
「なほ梅のにほひにぞ、古(いにしへ)のことも立ちかへり恋しう思ひ出(い)でらるる」
[訳] やはり梅の香りによって、以前のことも(当時に)さかのぼって自然となつかしく思い出される。
⑧
〔動作や作用の手法・手段〕…で。…によって。
出典竹取物語 火鼠の皮衣
「この皮衣は、火に焼かむに焼けずはこそ真(まこと)ならめ」
[訳] この皮衣は、火で焼こうとして焼けなかったならば、本物であろう。
⑨
〔動作や作用の結果、変化の結果〕…に。
出典枕草子 春はあけぼの
「火桶(ひをけ)の火も白き灰がちになりて、わろし」
[訳] 丸火鉢の火も白い灰が目立つ状態になって、みっともない。
⑩
〔受身表現や使役表現で動作の主体〕…に。…によって。
出典枕草子 ありがたきもの
「ありがたきもの。舅(しうと)にほめらるる婿」
[訳] めったにないもの。(それは)舅にほめられる婿。
⑪
〔婉曲(えんきよく)に主体を示し、敬意を表す〕…におかれては。
出典枕草子 うへにさぶらふ御猫は
「上にも聞こしめして、渡りおはしましたり」
[訳] 天皇におかれてもお聞きになって、おいであそばされた。
⑫
〔資格・地位〕…として。
出典更級日記 竹芝寺
「火たく衛士(ゑじ)にさし奉りたりけるに」
[訳] 火をたく衛士として指名して御所に差し上げていたところ。
⑬
〔比較の基準や比況〕…より。…と比べて。…のように。
出典竹取物語 かぐや姫の昇天
「昼のあかさにも過ぎて光りわたり」
[訳] 昼の明るさと比べても、それ以上に一面に光っていて。
⑭
〔状況・状態〕…の状況で。…において。
出典枕草子 うへにさぶらふ御猫は
「二人して打たむには、侍(はべ)りなむや」
[訳] (犬を)二人で打ったりしたら、そんな状況では生きていることができるだろうか、いや、できないだろう。
⑮
〔累加・添加の基準〕…に。…のうえに。
出典平家物語 一一・能登殿最期
「赤地の錦(にしき)の直垂(ひたたれ)に、唐綾縅(からあやをどし)の鎧(よろひ)着て」
[訳] 赤地の錦の直垂のうえに、唐綾縅の鎧を着て。
⑯
〔強意〕ただもう。どんどん。▽同じ動詞を重ねた間に用いる。
出典竹取物語 かぐや姫の昇天
「閉(た)て籠(こ)めたる所の戸、すなはちただ開(あ)きに開きぬ」
[訳] (かぐや姫を)閉じこめて閉め切っておいた所の戸が、すぐにただもうどんどん開いてしまった。
に
《接続》活用語の連体形に付く。
①
〔逆接の確定条件〕…のに。…けれども。
出典伊勢物語 二三
「よろこびて待つに、たびたび過ぎぬれば」
[訳] (女は)喜んで(男を)待っていたのに、(河内の方にやって来ても)その度ごとに通りすぎてしまったので。
②
〔順接の確定条件〕…ので。…ために。
出典伊勢物語 九
「渡し守、『はや舟に乗れ、日も暮れぬ』と言ふに、乗りて渡らむとするに」
[訳] 川の渡し舟の船頭が「早く舟に乗れ、日も暮れてしまう」と言うので、乗って渡ろうとするが。
③
〔単純接続〕…ところ。…と。
出典徒然草 四一
「賀茂(かも)の競(くら)べ馬を見侍(はべ)りしに」
[訳] 賀茂の祭りの競べ馬を見物しましたところ。
④
〔添加〕…のうえ、さらに。…に加えて。
出典源氏物語 夕顔
「霧も深く露けきに、簾(すだれ)をさへ上げ給(たま)へれば、御袖(そで)もいたくぬれにけり」
[訳] 霧も深くたちこめて露にしっとりとぬれているうえに、(車の)簾までお上げになっていらっしゃるので、お袖もひどくぬれてしまった。
に
《接続》活用語の未然形に付く。〔他に対する願望〕…てほしい。
出典万葉集 八〇一
「ひさかたの(=枕詞(まくらことば))天路(あまぢ)は遠しなほなほに家に帰りて業(なり)をしまさに」
[訳] 天上への道は遠い。まっすぐに(自分の)家に帰って家業をなさってほしい。◆上代語。
に
打消の助動詞「ず」の上代の連用形。
に
完了の助動詞「ぬ」の連用形。
に
ナリ活用形容動詞の連用形活用語尾の一つ。
に
断定の助動詞「なり」の連用形。
に 【丹】
赤土。また、赤色の顔料。赤い色。
に 【二】
①
数の名。ふたつ。
②
二番目。また、第二流。
やう-やう(と・に) 【漸う(と・に)】
①
だんだん(と)。しだいに。
出典枕草子 春はあけぼの
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて」
[訳] 春は夜明け方がよい。だんだんと白くなっていく空の、山の稜線(りようせん)に接するあたりが、少し明るくなって。
②
やっと。かろうじて。
出典奥の細道 草加
「その日、やうやう草加(さうか)といふ宿(しゆく)にたどり着きにけり」
[訳] その日、やっと草加という宿場にたどり着いたのだった。
ようよう(と・に) 【漸う(と・に)】
⇒やうやう(と・に)
こま-ごま(と・に) 【細細(と・に)】
①
細かく。細かに。
出典枕草子 野分のまたの日こそ
「格子(かうし)の壺(つぼ)などに、木の葉をことさらにしたらむやうに、こまごまと吹き入れたるこそ」
[訳] 格子のます目ごとに、木の葉をわざわざそうしたように、細かく吹き入れてあるのは。
②
詳しく。事こまやかに。
出典竹取物語 ふじの山
「え戦ひとめずなりぬること、こまごまと奏(そう)す」
[訳] (かぐや姫を)戦ってとどめることができなかった事情を、詳しく帝(みかど)に申し上げる。
③
行き届いて。繊細に。
出典源氏物語 東屋
「髪の裾(すそ)のをかしげさなどは、こまごまと貴(あて)なり」
[訳] (浮舟の)髪の裾先の魅力的な風情などは、繊細で上品だ。
しく-しく(と・に) 【頻く頻く(と・に)】
うち続いて。しきりに。
出典万葉集 三九七四
「うるはしと吾(あ)が思(も)ふ君はしくしく思ほゆ」
[訳] すばらしいと私が思うあなたのことがしきりに思われる。
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