学研全訳古語辞典 |
し・む 【染む・浸む】
活用{ま/み/む/む/め/め}
①
しみ込む。ひたる。
出典万葉集 三四三
「なかなかに人とあらずは酒壺(さかつぼ)に成りにてしかも酒にしみなむ」
[訳] なまじっか人間でいないで、酒壺になってしまいたいなあ。(そうしたら)酒にひたっていられるであろう。
②
しみつく。染まる。
出典古今集 夏
「蓮葉(はちすば)の濁りにしまぬ心もてなにかは露を玉と欺く」
[訳] ⇒はちすばの…。
③
深く感じる。心にしみる。関心を寄せる。
出典徒然草 一三七
「椎柴(しひしば)・白樫(しらがし)などのぬれたるやうなる葉の上にきらめきたるこそ、身にしみて」
[訳] 椎や白樫の木などのぬれているような葉の上に月の光がきらきらと光っているのは心にしみて。
活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}
①
しみ込ませる。しみ通らせる。
出典枕草子 七月ばかりいみじうあつければ
「香(かう)の紙のいみじうしめたる、匂(にほ)ひいとをかし」
[訳] 香色(=赤味を帯びた黄色)の薄様(うすよう)の紙で、香をたいそうしみ込ませたものは、香りがとても風情がある。
②
深く感じさせる。しみ込ませる。執着する。
出典更級日記 夫の死
「よしなき物語・歌のことをのみ心にしめで、夜昼思ひて、行ひをせましかば」
[訳] つまらない物語や歌のことばかりに執着しないで、夜昼一心にお勤めをしていたならば。
そ・む 【染む】
活用{ま/み/む/む/め/め}
①
染まる。しみ込んで色がつく。
出典古今集 雑体
「神無月(かみなづき)しぐれの雨のそめるなりけり」
[訳] (紅葉の色は)陰暦十月のしぐれの雨がしみ込んで染まったのだったなあ。
②
感化される。とらわれてなじむ。執着する。
出典源氏物語 若菜上
「この世にそみたるほどの濁り、深きにやあらむ」
[訳] この俗世間に感化されている間の煩悩(ぼんのう)が深いからだろうか。
③
深く感じる。心に深くしみいる。
出典平家物語 七・願書
「渇仰(かつがう)肝にそむ」
[訳] (八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)の)ありがたさが心に深くしみいる。
活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}
①
色を付ける。染める。
出典万葉集 四四二四
「色深く背なが衣(ころも)はそめましを」
[訳] 色も濃くあなたの衣服を染めたらよかったのに。
②
思いこむ。心を傾ける。
出典古今集 恋五
「心こそうたて憎けれそめざらば移ろふことも惜しからましや」
[訳] 心というものはいやに憎いものだ。あの人に心を傾けなかったら、あの人が心変わりすることも惜しいと嘆いただろうか。
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