学研全訳古語辞典 |
さ・る 【去る】
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
①
〔季節や時刻を表す語に付いて〕来る。なる。
出典金葉集 秋
「夕されば門田(かどた)の稲葉おとづれて」
[訳] ⇒ゆふさればかどたのいなば…。
②
離れる。立ち去る。
出典徒然草 四一
「『ここへ入らせ給(たま)へ』とて、所をさりて呼び入れ侍(はべ)りにき」
[訳] 「この場所にお入りください」と言って、そこを立ち去って(私を)呼び入れました。
③
(地位などから)退く。おりる。
出典源氏物語 若菜上
「御位をさらせ給(たま)へれど」
[訳] (朱雀(すざく)院は)み位を退いていらっしゃるが。
④
過ぎ去る。
出典平家物語 三・城南之離宮
「時さり年来たって」
[訳] 時は過ぎ年は来て。
⑤
〔「世をさる」の形で〕死ぬ。出家する。
出典源氏物語 若菜上
「うちつづき世をさらむきざみ」
[訳] 引き続いて私が死ぬときには。
⑥
変化する。あせる。
出典貫之集 五
「雨降れば色さりやすき花ざくら」
[訳] 雨が降ると色の変わりやすい花ざくらよ。
⑦
隔たる。
出典今昔物語集 三・一四
「宮の北に二里をさりて方丈の室を造りて」
[訳] 宮殿の北方二里隔たった所に一丈四方(=約九平方メートル)の家を造って。
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
①
遠ざける。離す。
出典源氏物語 桐壺
「あながちに御前(おまへ)さらずもてなさせ給(たま)ひしほどに」
[訳] (桐壺更衣(きりつぼのこうい)を)無理やりおそばから離さないで(帝(みかど)が)お扱いになっていらっしゃるうちに。
②
離縁する。離別する。
出典今昔物語集 二七・二四
「男、…この妻(め)をさりて」
[訳] 男は、…この妻を離縁して。
さ・る 【戯る】
活用{れ/れ/る/るる/るれ/れよ}
①
たわむれる。はしゃぐ。
出典枕草子 かたはらいたきもの
「旅だちたるところにて、下衆(げす)どもされゐたる」
[訳] よそに泊まった先で、(お供の)下男たちがはしゃいでいるの。
②
才気がある。気が利く。
出典源氏物語 紅葉賀
「『入(い)りぬる磯(いそ)の』と口ずさみて、口おほひし給(たま)へるさま、いみじうされて、うつくし」
[訳] 「入りぬる磯の」と口ずさんで、(袖(そで)で)口もとをお隠しになられた(紫の上の)ようすは、たいへん気が利いて、かわいらしい。
③
色気がある。
出典源氏物語 少女
「年の程よりはされてやありけむ」
[訳] (惟光(これみつ)の娘は)年齢の割には色気があったのだろうか。
④
しゃれている。風情がある。趣がある。
出典源氏物語 浮舟
「されたる常磐木(ときはぎ)の影茂れり」
[訳] 風情がある常磐木の姿は枝葉が茂っている。◆後に「ざる」とも。
さ・る 【晒る・曝る】
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
日や風雨にさらされて、色や形が変わる。「しゃる」とも。
出典霊異記 下
「久しきを歴(へ)て日にさりたるも」
[訳] 久しい年月がたち日にさらされて、色や形が変わっていたにもかかわらず。
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
日や風雨が当たるままにする。さらす。
出典霊異記 下
「身を投げ骨をさりて」
[訳] (川)に身を投げ骨をさらして。
活用{れ/れ/る/るる/るれ/れよ}
[一]に同じ。
出典散木集
「陸奥(みちのく)の蓼生(たでふ)に骨のされむとすらむ」
[訳] 奥州の蓼生の野に(人)骨がさらされようとするのだろう。
さる 【然る】
①
そのような。そういう。そんな。
出典伊勢物語 九
「みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折しも」
[訳] そこにいる人は皆、なんとなくせつなくて、都に愛する人が必ずしもいないわけではない。(それを思い出す)そのような折に。
②
しかるべき。相当な。立派な。
出典徒然草 二三一
「別当(べつたう)入道、さる人にて」
[訳] 別当入道は、相当な(気の利く)人物であって。
③
ある。某。しかじかの。▽対象を漠然と示す。
出典隅田川 謡曲
「この在所にさる子細(しさい)候ひて」
[訳] この土地にある事情がございまして。◆ラ変動詞「さり」の連体形から変化した語。
さる 【猿】
①
動物の名。
②
こざかしい者や猿に似た顔つきの者をののしっていう語。
さる 【申】
①
「十二支(じふにし)」の第九。
②
方角の名。西南西。
③
時刻の名。午後四時。また、それを中心とした二時間。
さ・る 【避る】
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
①
よける。避ける。
出典徒然草 五九
「えさらぬ事のみいとどかさなりて」
[訳] 避けられない用事ばかりがいっそう重なって。
②
断る。辞退する。
出典更級日記 宮仕へ
「『若い人まゐらせよ』と仰せらるれば、えさらず出(い)だし立つるに」
[訳] 「若い人を出仕させなさい」とおっしゃるので、どうしても断ることができなくて出仕させるのだが。
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