学研全訳古語辞典 |
た・つ
活用{た/ち/つ/つ/て/て}
(一)
【断つ・絶つ・截つ】
①
切り離す。
出典徒然草 二一七
「この掟(おきて)は、ただ人間の望みをたちて」
[訳] この掟は、ただ人間的な欲望を切り離して。
②
(続けていた物事や習慣)をやめる。
出典竹取物語 蓬莱の玉の枝
「五穀たちて、千余日に力を尽くしたること少なからず」
[訳] 食べ物をやめて、千日余りに力を出し尽くしたことも尋常ではない。
③
滅ぼす。
出典万葉集 四四六五
「虚言(むなこと)も祖(おや)の名たつな」
[訳] かりそめにも祖先の名を滅ぼすな。
(二)
【裁つ】布を裁断する。裁つ。
出典万葉集 一二七八
「夏影の房(つまや)の下に衣(きぬ)たつ吾妹(わぎも)」
[訳] 夏の木陰の離れ屋の下で着物の布を裁断するわが妻。
た・つ 【立つ・起つ】
活用{た/ち/つ/つ/て/て}
①
(人や動物が)立つ。(植物が)生える。(物が)立つ。
出典更級日記 初瀬
「門広う押し開けて、人々たてるが」
[訳] 門を広く押し開けて、供の人たちが立っている、その人たちが。
②
置いてある。止まる。
出典枕草子 祭のかへさ
「雲林院(うりんゐん)・知足院などのもとにたてる車ども」
[訳] 雲林院・知足院などのところに止まっている多くの牛車。
③
位置を占める。位置する。(ある位置に)立つ。
出典枕草子 うらやましげなるもの
「遅れて来(く)と見る者どもの、ただ行きに先にたちてまうづる、いとめでたし」
[訳] 後からくると見られた人たちが、どんどん先に立って参拝するのはとてもすばらしい。
④
地位につく。即位する。
出典大鏡 後一条
「春宮(とうぐう)にたたせ給(たま)ひき」
[訳] 皇太子の位におつきになりました。
⑤
(風・波などが)起こる。立つ。立ち昇る。
出典古今集 雑下
「風吹けば沖つ白波たつた山夜半(よは)にや君がひとり越ゆらむ」
[訳] ⇒かぜふけばおきつしらなみ…。
⑥
(季節が)やってくる。始まる。
出典奥の細道 旅立
「やや年も暮れ、春たてる霞(かすみ)の空に、白河の関越えんと」
[訳] ようやく年も暮れ、春がやってきて、霞がかかっている空を見るにつけ、白河の関を越えたいと。
⑦
知れ渡る。ひろがる。
出典拾遺集 恋一
「恋すてふわが名はまだきたちにけり人知れずこそ思ひそめしか」
[訳] ⇒こひすてふ…。
⑧
出発する。出かける。旅出つ。
出典徒然草 一九
「御仏名(おぶつみやう)、荷前(のさき)の使ひたつなどぞ、あはれにやんごとなき」
[訳] 御仏名、また諸陵墓への勅使が出発するさまなどは、趣深く尊い気がする。◇「発つ」とも書く。
⑨
(鳥が)飛び立つ。
出典新古今集 秋上
「心なき身にもあはれは知られけり鴫(しぎ)たつ沢の秋の夕暮れ」
[訳] ⇒こころなき…。
⑩
(月日が)過ぎる。経過する。
出典源氏物語 若紫
「たちぬる月の二十日のほどになむ」
[訳] 過ぎてしまった先月の二十日のそのころに。
活用{た/ち/つ/つ/て/て}
〔動詞の連用形に付いて〕盛んに…する。きわだって…する。
出典源氏物語 夕霧
「律師も騒ぎたち給(たま)うて」
[訳] 律師も盛んに騒ぎなさって。
{語幹〈た〉}
①
立たせる。立ち止まらせる。立てる。
出典万葉集 三三八六
「にほ鳥の(=枕詞(まくらことば))葛飾(かづしか)早稲(わせ)をにへすともそのかなしきを外(と)にたてめやも」
[訳] 葛飾の地で産した早生(わせ)の稲を神に供えていても、あのいとしい人を、外に立たせておこうか、外に立たせてはおけない。
②
止めて置く。
出典枕草子 鳥は
「雲林院(うりんゐん)・知足院などの前に車をたてたれば」
[訳] 雲林院・知足院などの前に牛車を止めて置くと。
③
つかせる。即位させる。
出典今昔物語集 三一・三三
「『やがて具して宮に返りて、后にたてむ』とのたまふに」
[訳] 「このまま内裏(だいり)に連れて帰って后につかせよう」と天皇がおっしゃると。
④
(門・戸などを)閉める。
出典枕草子 にくきもの
「あけていで入る所たてぬ人、いとにくし」
[訳] 開けて出入りする所を閉めない人はたいそう憎らしい。
⑤
建てる。
出典徒然草 二〇七
「亀山殿(かめやまどの)たてられんとて、地を引かれけるに」
[訳] 亀山の御殿をお建てになろうとして、地をならされると。◇「建つ」とも書く。
⑥
起こす。立たせる。立ちこめさせる。立ち昇らせる。
出典土佐日記 一・七
「海をさへおどろかして、波たてつべし」
[訳] 海の神までもびっくりさせて、きっと波を起こしてしまいそうだ。
⑦
広く知らせる。表面に出す。
出典徒然草 八五
「偽り飾りて名をたてんとす」
[訳] 偽り飾り立てて名を広く知らせようとする。
⑧
はっきり表す。押し通す。
出典源氏物語 若菜上
「心をたてて、世の中に過ぐさむことも」
[訳] 自分の考えを押し通して、世を過ごすようなことも。
⑨
(願(がん)や誓いを)立てる。
出典土佐日記 一二・二二
「二十二日に、和泉(いづみの)国までと、平らかに願(ぐわん)たつ」
[訳] 二十二日に、和泉の国(大阪府南部)まではと、平穏無事であるように願を立てる。
⑩
成り立たせる。もっぱらとする。
出典宇治拾遺 三・六
「この道をたてて世にあらんには、仏だによく書き奉らば、百千の家も出(い)できなん」
[訳] この絵の道をもっぱらにして世を送るには、仏さえ立派に描き申し上げたならば、百や千の家もきっとできるだろう。
⑪
出発させる。出向かせる。
出典平家物語 一一・能登殿最期
「新中納言使者をたてて『…』と宣(のたま)ひければ」
[訳] 新中納言(=平知盛)が使者を出向かせて「…」とおっしゃったので。◇「発つ」とも書く。
⑫
月日を過ごす。経過させる。
出典好色五人女 浮世・西鶴
「年波の日数(ひかず)をたてて、憂き世帯もふたり住みならば」
[訳] 年月を過ごして、辛い貧乏暮らしも二人で住むならば。
活用{て/て/つ/つる/つれ/てよ}
〔動詞の連用形に付いて〕盛んに…する。ことさら…する。
出典更級日記 子忍びの森
「まづ胸あくばかりかしづきたてて」
[訳] まず気持ちが晴れるほどあなたをことさら大切に育てあげて。
たつ 【竜】
想像上の動物の一つ。体は大蛇に似ていて、四脚で、背にうろこがある。顔が長く、角・耳・ひげがある。水中に潜み、空を飛んで雲・雨を起こすという。「りゅう」とも。
たつ 【辰】
①
「十二支(じふにし)」の第五。
②
時刻の名。午前八時。また、それを中心とする二時間。
③
方角の名。東南東。
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