学研全訳古語辞典 |
や・る 【遣る】
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
①
行かせる。出発させる。派遣する。
出典徒然草 五〇
「人をやりて見するに、おほかた逢へる者なし」
[訳] (女の鬼がいるというので)人を行かせて(ようすを)見させるが、いっこうに(鬼に)会った者がいない。
②
(手紙や物を)送る。届ける。贈る。
出典伊勢物語 一
「をとこの着たりける狩衣(かりぎぬ)の裾(すそ)を切りて、歌を書きてやる」
[訳] 男は、着ていた狩衣の裾を切って、歌を書いて贈る。
③
晴らす。気を晴らす。なぐさめる。
出典万葉集 三四六
「酒飲みて心をやるにあにしかめやも」
[訳] (夜光る玉であろうと)酒を飲んで心を慰めるのにどうしてまさろうか、いや、まさりはしない。
④
与える。払う。
出典徒然草 九三
「明日(あす)その値(あたひ)をやりて牛を取らんといふ」
[訳] (牛を買う人は)明日その代金を払って牛を受け取ろうという。
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
〔動詞の連用形に付いて〕
①
遠く…する。はるかに…する。▽その動作が遠くまで及ぶことを表す。
出典源氏物語 夕顔
「鳥辺野(とりべの)の方(かた)見やりたるほどなど」
[訳] (火葬場のある)鳥辺野の方をはるかに見渡したときなど。
②
〔多く下に打消の語を伴って〕すっかり…する。最後まで…する。…しきる。▽その動作が最後まで行われたという意味を表す。
出典源氏物語 桐壺
「言ひもやらず、むせかへり給(たま)ふほどに」
[訳] (母君は悲しみのために)最後まで言うこともできず、むせび泣きなさっているうちに。
参考
「やる」が自分の方から他の方へ動作が及ぶのに対して、他の方から自分の方へ動作が及ぶ意味を表す語に「おこす(遣す)」があり、「やる」と「おこす」は対立する言葉(=対義語)となっている。
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