学研全訳古語辞典 |
たてまつ・る 【奉る】
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
①
差し上げる。献上する。▽「与ふ」「贈る」の謙譲語。
出典徒然草 二三一
「人に物を取らせたるも、ついでなくて、『これをたてまつらん』と言ひたる、まことの志なり」
[訳] 人に物を与える場合も、何のきっかけもなくて、「これを差し上げましょう」と言っているのが本当の誠意である。
②
お伺いさせる。参上させる。▽「遣(や)る」の謙譲語。
出典枕草子 清涼殿の丑寅のすみの
「『上渡らせ給(たま)ひて、かかること』など殿に申しにたてまつられたりければ」
[訳] 「天皇様が(女御の所に)おいでになって、これこれのことが(行われています)」と、人々が左大臣殿にお知らせするために(使いを)参上させなさったので。
③
召し上がる。お召しになる。▽「飲む」「食ふ」「着る」の尊敬語。
出典竹取物語 かぐや姫の昇天
「一人の天人言ふ、『壺(つぼ)なる御薬たてまつれ』」
[訳] 一人の天人がかぐや姫に言うには「壺にあるお薬を召し上がれ」。
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
お乗りになる。▽「乗る」の尊敬語。
出典竹取物語 御門の求婚
「御輿(こし)にたてまつりてのちに」
[訳] (帝(みかど)は)御輿にお乗りになってから。
活用{れ/れ/○/○/○/○}
①
[一]①に同じ。
出典源氏物語 若紫
「御文たてまつれ給(たま)へり」
[訳] お手紙を差し上げなさった。
②
[一]②に同じ。
出典源氏物語 若紫
「君の御許よりは、惟光(これみつ)をたてまつれ給(たま)へり」
[訳] 源氏のおもとからは、従者の惟光を参上させなさった。
活用{ら/り/る/る/れ/れ}
〔動詞や受身・使役の助動詞の連用形に付いて〕…申し上げる。▽謙譲の意を表す。
出典徒然草 三二
「九月二十日のころ、ある人に誘はれたてまつりて」
[訳] 九月二十日ごろ、ある人に誘われ申し上げて。
参考
同じ謙譲の補助動詞に「聞こゆ」があるが、『源氏物語』などでは、「奉る」は「見る」「聞く」、および「返す」「抱く」などの動作を表す動詞、助動詞「る」「らる」「す」「さす」「しむ」に付き、「聞こゆ」は「思ふ」「恋ふ」などの精神活動を表す動詞に付く傾向があるといわれる。
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