学研全訳古語辞典 |
たり
《接続》ラ変以外の動詞、および「つ」を除く動詞型活用の助動詞の連用形に付く。
(一)
〔完了〕…た。…てしまった。▽動作・作用が完了した意を表す。
出典宇治拾遺 一・一二
「無期(むご)の後に、『えい』といらへたりければ」
[訳] 時間が長くたってから、「はい」と返事したので。
(二)
〔存続〕
①
…ている。…てある。…た。▽動作・作用が行われ、その結果が残っている意を表す。
出典枕草子 三月三日は
「おもしろく咲きたる桜を長く折りて、大きなる瓶(かめ)にさしたるこそ、をかしけれ」
[訳] 美しく咲いている桜を長く折って、大きな花瓶(かびん)に挿してあるのは、趣深い。
②
…ている。…てある。▽動作・作用が現在も続いている意を表す。
出典枕草子 春はあけぼの
「紫だちたる雲の細くたなびきたる」
[訳] 紫がかっている雲が細く横に長く引いているの(はとても趣深い)。
(三)
〔並列〕…たり…たり。▽二つ以上の動作・作用を交互に行う意を表す。
出典平家物語 一一・先帝身投
「艫(とも)舳(へ)に走り回り、掃いたり、拭(のご)うたり」
[訳] (知盛(とももり)は)船尾や舳先(へさき)に走り回り、掃いたり、拭(ふ)いたり。
語法
(1)完了と存続の違い 「たり」は、「つ」「ぬ」「り」とともに完了の助動詞であるが、「たり」の基本の意味は、「り」と同様に動作・作用が行われてその結果が残っていることを表す存続である。完了と存続の見分け方については
注意
(1)参照。(2)接続の特徴 「たり」は、「り」と、その意味はまったく同じであるが、接続は、大きく異なる。また、中古では尊敬の補助動詞「給(たま)ふ」に接続する場合には、「給へり」が一般的で、「給ひたり」はまれであった。(3)(三)は中世以降の用法で、「…たり…たり」の構文で用いられる。
注意
(1)完了か存続かは文脈で判断しなければならないが、便宜的に存続の「…ている」「…てある」で訳してみて、文脈に合えば存続。そうでない場合は完了と判断すればよい。(2)断定の助動詞「たり」と混同しないようにすること。
参考
接続助詞「て」+ラ変動詞「あり」からなる「てあり」の変化した語。
たり
《接続》体言に付く。〔断定〕…である。…だ。
出典平家物語 一・鱸
「清盛(きよもり)、嫡男たるによって、その跡をつぐ」
[訳] 清盛は、正式の長男であることによって、その(死んだ父の)家督を継ぐ。
注意
完了の助動詞「たり」や「漫漫たり」などのタリ活用形容動詞の語尾と混同しないようにすること。
参考
格助詞「と」+ラ変動詞「あり」からなる「とあり」の変化した語。
語の歴史
中古には漢文訓読の文章に用いられ、和文にはほとんど用いられなかったが、中世以降和漢混交文に用いられて一般化した。
たり
完了の助動詞「たり」の連用形。
出典徒然草 八九
「飼ひける犬の暗けれど主を知りて、飛びつきたりけるとぞ」
[訳] 飼っていた犬が、暗いけれど飼い主とわかって、飛びついたのだったということだ。
たり
断定の助動詞「たり」の連用形。
出典平家物語 三・大塔建立
「清盛公いまだ安芸守(あきのかみ)たりし時」
[訳] 清盛公がまだ安芸守であったとき。
たりのページへのリンク |