学研全訳古語辞典 |
と
〔多く「…とに」の形で〕とき。あいだ。うち。
出典万葉集 三七四七
「はや帰りませ恋ひ死なぬとに」
[訳] 早く帰って来てください。(私が)恋い焦がれて死なないうちに。
と
そう。そのように。あのように。
出典源氏物語 東屋
「と言ひかく言ひ、恨み給(たま)ふ」
[訳] ああ言い、こう言いして、お恨みになる。◆ふつう、副詞「かく(かう)」と対にして用いられる。
と
《接続》体言や体言に準ずる語、引用句などに付く。
①
〔動作を共にする相手〕…と。…と一緒に。
出典源氏物語 若紫
「何事ぞや。童(わらは)べと腹立ち給(たま)へるか」
[訳] 何事か。子供たちとけんかしなさったのか。
②
〔比較の基準〕…と。…に比べて。
出典源氏物語 玉鬘
「かたちなどは、かの昔の夕顔と劣らじや」
[訳] 容貌(ようぼう)などは、あの昔の夕顔に比べて劣らないだろうよ。
③
〔引用〕…と。▽「言ふ」「思ふ」「聞く」などの内容を示す。
出典伊勢物語 九
「『これなむ都鳥』と言ふを聞きて」
[訳] 「これが都鳥だよ」と(船頭が)言うのを聞いて。
④
〔目的〕…として。…と言って。…と思って。
出典竹取物語 かぐや姫の昇天
「脱ぎ置く衣(きぬ)を形見と見給(たま)へ」
[訳] この脱いで置く着物を私の形見と思ってご覧ください。
⑤
〔変化の結果〕…と。…に。…となって。
出典徒然草 三〇
「古き墳(つか)はすかれて田となりぬ」
[訳] 古い墳墓は掘り起こされて田になってしまった。
⑥
〔比喩(ひゆ)〕…のように。
出典更級日記 大納言殿の姫君
「笛の音のただ秋風と聞こゆるに」
[訳] 笛の音がまるで秋風のように聞こえるというのに。
⑦
〔強意〕〔同じ動詞の間に用いて〕
(ア)
…ものはすべて。▽動詞の意味を強める。
出典古今集 仮名序
「生きとし生ける者、いづれか歌を詠まざりける」
[訳] 生きているものはすべて、どれが歌を詠まなかったか、いや詠まないものはなかった。
(イ)
どんどん…する。▽動作の進行を表す。
出典宇治拾遺 三・一六
「食ひと食ひたる人々も、子供もわれも」
[訳] どんどん食いに食っている人々も、子供も自分も。
⑧
〔並列〕…と。
出典伊勢物語 九
「白き鳥の、嘴(はし)と脚と赤き、鴫(しぎ)の大きさなる」
[訳] 白い鳥であって、くちばしと脚とが赤い、鴫くらいの大きさの(鳥)。
参考
⑧を並立助詞とする説もある。
と
《接続》動詞型活用・形容動詞型活用の語の終止形、形容詞型の活用語および打消の助動詞「ず」の連用形に付く。〔逆接の仮定条件〕たとえ…ても。…としても。
出典蜻蛉日記 上
「穂に出(い)でたりとかひやなからむ」
[訳] (花すすきが)穂に出たとしても(かいない人に来いと言うのと同じで)むだであろうよ。
語法
形容詞型の活用語、打消の助動詞「ず」に付く場合、それらを未然形と見る立場もある。
参考
同じ逆接仮定条件の接続助詞「とも」に比べて例はきわめて少ないが、主として会話文や和歌に現れる。
と
タリ活用形容動詞の連用形語尾。
出典平家物語 三・法印問答
「凡(およ)そ、天心は、蒼々(さうさう)としてはかりがたし」
[訳] 全く、天の心はどこまでも青々として推測できない。
と
断定の助動詞「たり」の連用形。
と 【外】
外(そと)。外側。屋外。[反対語] 内(うち)。⇒そと
-と 【所・処】
…する所。…の場所。「隈(くま)と」「臥(ふし)ど」◆「ど」と濁ることが多い。
とどろ(に・と) 【轟(に・と)】
どうどう。ごうごう。▽大きな音が鳴り響くさま。
出典金槐集 雑
「大海の磯(いそ)もとどろに寄する波」
[訳] ⇒おほうみの…。
と 【門・戸】
①
出入り口。戸口。
②
瀬戸。海峡。両岸が迫って、水の流れの出入り口となる所。
出典万葉集 二五五
「明石(あかし)のとより大和島見ゆ」
[訳] ⇒あまざかる…。
③
戸。扉。
出典竹取物語 かぐや姫の昇天
「立て籠(こ)めたるところのと、すなはち、ただ開(あ)きに開きぬ」
[訳] 閉め切っておいた所の戸が、すぐに、ただもうどんどん開いてしまった。
と 【音】
音(おと)。声。響き。
出典万葉集 二二〇
「波のと」
◆「おと(音)」の変化した語。
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