学研全訳古語辞典 |
まし
《接続》活用語の未然形に付く。
①
〔反実仮想〕(もし)…であったら、…であるだろうに。…であっただろう。…であるだろう。▽実際には起こり得ないことや、起こらなかったことを想像し、それに基づいて想像した事態を述べる。
出典古今集 春上・伊勢物語八二
「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」
[訳] ⇒よのなかにたえてさくらの…。
②
〔悔恨や希望〕…であればよいのに。…であったならばよかったのに。▽実際とは異なる事態を述べたうえで、そのようにならなかったことの悔恨や、そうあればよいという希望の意を表す。
出典古今集 春上
「見る人もなき山里の桜花ほかの散りなむのちぞ咲かまし」
[訳] ⇒みるひとも…。
③
〔ためらい・不安の念〕…すればよいだろう(か)。…したものだろう(か)。…しようかしら。▽多く、「や」「いかに」などの疑問の語を伴う。
出典古今集 冬
「雪降れば木毎(ごと)に花ぞ咲きにけるいづれを梅と分きて折らまし」
[訳] ⇒ゆきふれば…。
④
〔単なる推量・意志〕…だろう。…う(よう)。
出典平家物語 九・忠度最期
「行(ゆ)き暮れて木(こ)の下かげを宿とせば花や今宵(こよひ)のあるじならまし」
[訳] もし、行く途中で日が暮れて木の下を宿とするならば、花が今夜の宿の主人となり、もてなしてくれるだろう。
語法
(1)未然形と已然形の「ましか」已然形の「ましか」の例「我にこそ開かせ給(たま)はましか」(『宇津保物語』)〈私に聞かせてくださればよいのに。〉(2)反実仮想の意味①の「反実仮想」とは、現在の事実に反する事柄を仮定し想像することで、「事実はそうでないのだが、もし…したならば、…だろうに。(だが、事実は…である)」という意味を表す。(3)反実仮想の表現形式反実仮想を表す形式で、条件の部分、あるいは結論の部分が省略される場合がある。前者が省略されていたなら、上に「できるなら」を、後者が省略されていたなら、「よいのになあ」を補って訳す。「この木なからましかばと覚えしか」(『徒然草』)〈この木がもしなかったら、よいのになあと思われたことであった。〉(4)中世以降の用法 中世になると①②③の用法は衰え、推量の助動詞「む」と同じ用法④となってゆく。
まし
反実仮想の助動詞「まし」の連体形。
出典古今集 恋二
「今ははや恋ひ死なましを」
[訳] (あの人が約束してくれなかったら)今はもう恋しさに死んでいただろうものを。
まし 【汝】
おまえ。▽対称の人称代名詞。同等以下の者に使う。
出典大鏡 道長下
「げにいとよき所なめり。ましが堂建てよ」
[訳] なるほど(寺を建てるのに)非常によい場所であるようだ。おまえが堂を建てよ。
まし 【猿】
「ましら」に同じ。
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