学研全訳古語辞典 |
こ-こ 【此処】
①
この場所。ここ。▽近称の指示代名詞。
出典徒然草 四一
「『ここへ入らせ給(たま)へ』とて、所を去りて呼び入れ侍(はべ)りにき」
[訳] 「この場所にお入りください」と言って、そこを立ち去って(私を)呼び入れました。
②
この国。日本。▽近称の指示代名詞。
出典土佐日記 二・九
「唐土(もろこし)もここも、思ふことに耐へぬときのわざとか」
[訳] (うたは)唐の国でもこの国でも、思うことに堪えられないときの(気持ちを表す)技芸とか。
③
この世。現世。▽近称の指示代名詞。
出典源氏物語 御法
「ここながら勤め給(たま)はむほどは」
[訳] この世にいながら仏道修行をなさる間は。
④
このこと。この点。▽近称の指示代名詞。
出典万葉集 一六二九
「なにすとか一日一夜(ひとひひとよ)も離(さか)りゐて嘆き恋ふらむここ思へば胸こそ痛き」
[訳] どうして一日一晩でも離れていて、嘆き恋しく思っているのだろうか。このことを思うと胸が痛いよ。
⑤
自分。私。▽自称の人称代名詞。「…に」の形で使われることが多い。
出典竹取物語 かぐや姫の昇天
「ここにも心にもあらでかくまかるに、昇らむをだに見送り給(たま)へ」
[訳] 自分も不本意ながらこうして(月の世界に)おいとまするのだから、せめて天に昇るのだけでもお見送りください。
⑥
あなた。▽対称の人称代名詞。「…に」の形で使われることが多い。
出典源氏物語 紅梅
「ここに、御消息(せうそこ)やありし」
[訳] あなたからお手紙をお上げなされたのですか。
⑦
この方。こちらの方。▽他称の人称代名詞。
出典落窪物語 二
「ここに胸病み給(たま)ふめり。物の積みかと、かいさぐり薬なども参らせ給へ」
[訳] この方が胸を病んでおいでのようだ。胸のもたれかと、診察して薬など差し上げてください。
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