学研全訳古語辞典 |
し-ぞ・く 【退く】
活用{か/き/く/く/け/け}
後退する。しりぞく。
出典土佐日記 二・五
「ゆくりなく風吹きて、漕(こ)げども漕げども、しりへしぞきにしぞきて」
[訳] 思いがけず風が吹いて、漕いでも漕いでも後ろへどんどん後退して。
しり-ぞ・く 【退く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
引き下がる。後ろへ下がる。
出典日本書紀 孝徳
「座(しきゐ)を避(さ)りてしりぞきて」
[訳] 座るための敷物をよけて引き下がって。
②
退出する。
出典古今著聞集 二五九
「舞ひてしりぞき入(い)りければ」
[訳] 舞ってすっかり退出したので。
③
引退する。身を引く。
出典徒然草 一三四
「拙(つたな)きを知らば、なんぞやがてしりぞかざる」
[訳] 巧みでないことを知ったなら、どうしてすぐに引退しないのか。
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
①
引き下がらせる。
出典平家物語 五・福原院宣
「朝家の怨敵(をんでき)をしりぞけよ」
[訳] 朝廷の怨みのある敵を引き下がらせよ。
②
遠ざける。
出典徒然草 一八
「奢(おご)りをしりぞけて財(たから)を持たず」
[訳] ぜいたくを遠ざけて財産を持たない。
そ・く 【退く】
活用{か/き/く/く/け/け}
離れる。遠ざかる。退く。逃れる。
出典古事記 仁徳
「倭方(やまとへ)に西風(にし)吹き上げて雲離(くもばな)れ(=序詞(じよことば))そき居(を)りとも我忘れめや」
[訳] 大和の方へ西風が吹いて雲が離れるように離れていようとも、わたしはお前を忘れようか、いや忘れはしない。
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
離す。分ける。遠ざける。のける。取り除く。
出典土佐日記 二・六
「いつしかといぶせかりつる難波潟(なにはがた)葦(あし)漕(こ)ぎそけてみ船来(き)にけり」
[訳] いつ着くかと気がかりでならなかった難波潟に葦を漕ぎ分けて御船はやって来たことよ。
の・く 【退く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
しりぞく。どく。立ちのく。
出典おらが春 俳文
「雀(すずめ)の子そこのけそこのけ御馬(おうま)が通る―一茶」
[訳] ⇒すずめのこ…。
②
地位を離れる。身を引く。手を引く。しりぞく。
出典大鏡 頼忠
「一条院位につかせ給(たま)ひしかば、…関白のき給ひにき」
[訳] 一条院が即位なされたので、…関白は(その地位を)おしりぞきになった。
③
間が隔たる。離れる。
出典狭衣物語 四
「居給(たま)ふべき所と見ゆるは、寺よりは少しのきてぞありける」
[訳] いらっしゃるはずの所と思われるのは、寺からは少し離れた所にあった。
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
①
しりぞかせる。どかせる。
出典枕草子 よろづのことよりも、わびしげなる
「立てる車どもを、ただのけにのけさせて」
[訳] とめてあった多くの車を、強引にどかせて。
②
間を隔てる。離す。
出典徒然草 二一九
「この穴を吹く時は、必ずのく」
[訳] (横笛の)この穴を吹くときは、必ず(口を)離す。
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
〔動詞連用形+助詞「て」の下に付いて〕…てしまう。
出典曾根崎心中 浄瑠・近松
「いっそ死んでのけたい」
[訳] いっそ死んでしまいたい。
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