学研全訳古語辞典 |
あと 【後】
①
後ろ。背後。
出典落窪物語 一
「少将の直衣(なほし)の、あとの方より出(い)でたるを、ふと見つけて」
[訳] (几帳(きちよう)の陰に隠れている)少将の直衣(のうし)が、(几帳の)後ろの方から出ているのを、(北の方は)とっさに見つけて。
②
(その時より)あと。のち。以後。
出典徒然草 三二
「あとまで見る人ありとは、いかでか知らん」
[訳] (客の帰った)あとまで、(自分を)見る人がいるとは、どうして知るだろうか、いや、知るはずはない。
③
死後。
出典徒然草 一四〇
「『我こそ得め』などいふ者どもありて、あとにあらそひたる、様(さま)あし」
[訳] 「(遺産を)自分こそ手に入れよう」などと言う者たちがいて、死後に争っているのは、みっともない。[反対語]①②先(さき)。
あと 【跡】
①
足もと。足のあたり。足。
出典万葉集 八九二
「父母(ちちはは)は枕(まくら)のかたに妻子(めご)どもはあとのかたに囲(かく)みゐて」
[訳] ⇒かぜまじり…。
②
足跡。
出典徒然草 一三七
「雪にはおり立ちてあとつけなど、よろづのものよそながら見ることなし」
[訳] (田舎者は)雪の上には下りて立って足跡をつけるなど、すべてについてそれとなく見ることがない。
③
(去って行った)方向。行方。
出典古今集 離別
「雪のまにまにあとはたづねむ」
[訳] 雪の中を行きながら(あなたの)行方を尋ねよう。
④
痕跡(こんせき)。形跡。
出典奥の細道 平泉
「夏草や兵(つはもの)どもが夢のあと―芭蕉」
[訳] ⇒なつくさや…。
⑤
筆跡。
出典源氏物語 橋姫
「古めきたるかびくささながら、あとは消えず」
[訳] (紙は)古めかしくかびくささがあるが、筆の跡は消えないでいて。
⑥
(定まった)形式。様式。先例。
出典源氏物語 帚木
「臨時のもてあそび物の、その物とあとも定まらぬは」
[訳] その場限りの慰みもので、そのものはこうしたものだという様式も定まらないのは。
⑦
家のあとめ。家督。
出典平家物語 一・鱸
「清盛(きよもり)嫡男たるによって、そのあとをつぐ」
[訳] 清盛は正式の長男であることによって、その(死んだ父忠盛の)家督を継ぐ。
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