学研全訳古語辞典 |
きこ・ゆ 【聞こゆ】
{語幹〈きこ〉}
①
聞こえる。
出典更級日記 大納言殿の姫君
「笛の音(ね)のただ秋風ときこゆるになどをぎの葉のそよと答へぬ」
[訳] 笛の音がまるで秋風のように聞こえるというのに、なぜ(風になびく)おぎの葉が「そよ」とも返事をしないのか。
②
うわさされる。評判になる。世間に聞こえる。
出典平家物語 九・木曾最期
「滋籐(しげどう)の弓持って、きこゆる木曾の鬼葦毛(おにあしげ)といふ馬の、きはめて太うたくましいに」
[訳] (義仲は)滋籐の弓を持って、評判の高い木曾の鬼葦毛という名馬で、とても太くてたくましい馬に。
③
理解できる。わけがわかる。
出典徒然草 一七五
「きこえぬことども言ひつつよろめきたる」
[訳] (酒に酔って)、わけのわからないことの数々を何度も言ってよろめいているのは。
④
受け取られる。思われる。
出典源氏物語 花宴
「いと若うをかしげなる声の、なべての人とはきこえぬ」
[訳] たいそう若々しく趣のある声で、普通の女房とは思われない(声が)。
活用{え/え/ゆ/ゆる/ゆれ/えよ}
①
申し上げる。▽「言ふ」の謙譲語。
出典源氏物語 桐壺
「よろづの事を泣く泣く契りのたまはすれど、御いらへもえきこえ給(たま)はず」
[訳] (帝(みかど)が)すべてのことを泣く泣くお約束なさるけれど、(桐壺更衣(きりつぼのこうい)は)ご返事も申し上げることがおできになれない。
②
(…と)お呼びする。(…と)申し上げる。▽「言ふ」「呼ぶ」などの謙譲語。
出典徒然草 四五
「公世(きんよ)の二位のせうとに、良覚僧正(りやうがくそうじやう)ときこえしは」
[訳] (藤原)公世という二位の人の兄で、良覚僧正と申し上げた方は。
③
差し上げる。▽手紙などを送ることをいう謙譲語。
出典源氏物語 末摘花
「御消息(せうそこ)やきこえつらむ、例の、いと忍びておはしたり」
[訳] お手紙を差し上げたのだろうか、いつものように、源氏はたいそう目立たないようにおいでになった。
活用{え/え/ゆ/ゆる/ゆれ/えよ}
〔動詞の連用形に付いて〕お…する。…申し上げる。▽謙譲の意を表す。
出典竹取物語 かぐや姫の昇天
「竹の中より見つけきこえたりしかど」
[訳] 竹の中から見つけ申し上げたけれども。
語法
[二]他動詞は、他の動詞の上に付いて、「聞こえ…」の形で複合動詞をつくることも多い。これは「言ひ…」という複合動詞の謙譲語である。「聞こえかへす」〈お答え申し上げる。〉「聞こえわづらふ」〈申し上げにくがる。〉
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