学研全訳古語辞典 |
しづ・む 【沈む】
活用{ま/み/む/む/め/め}
①
(水中に)没する。沈む。
出典平家物語 一一・内侍所都入
「侍(さぶらひ)ども二十余人おくれ奉らじと、手に手を取り組んで一所にしづみけり」
[訳] (家来の)武士ども二十人余りが主君に(死に)遅れ申し上げまいと、手に手を組んで同じ所(の海)に沈んだ。
②
不遇である。落ちぶれる。
出典源氏物語 澪標
「御子どもなどしづむやうにものし給(たま)へるを、みな浮かび給ふ」
[訳] お子様方なども不遇であるようでいらっしゃったが、みな出世しなさる。
③
落ち込む。沈み込む。
出典源氏物語 明石
「いみじき憂へにしづむを見るに」
[訳] (あなたが)大変な悲しみに沈み込むのを見ると。
④
〔「病にしづむ」の形で〕重い病気にかかる。わずらう。
出典源氏物語 澪標
「病にしづみて返し申し給(たま)ひける位を」
[訳] 重い病気にかかってお返し申し上げなさった位を。
⑤
〔「涙にしづむ」の形で〕泣き続ける。泣き暮らす。
出典源氏物語 賢木
「中宮は涙にしづみ給(たま)へるを見たてまつらせたまふも」
[訳] (院は)中宮が泣き暮らしておられるのを見申し上げなさるにつけても。
活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}
①
水中に沈める。
出典平家物語 四・宮御最期
「宇治川の深きところにしづめてんげり」
[訳] (三位入道の首を)宇治川の深いところ(=水底)に沈めてしまった。
②
落ちぶれさせる。
出典源氏物語 玉鬘
「ほとほと、あやしき世界にしづめ奉りつべかりしに」
[訳] すんでのところで、(姫君を)片田舎で落ちぶれさせ申してしまうところであったが。
③
(評判を)落とす。
出典源氏物語 絵合
「年経(へ)にし伊勢(いせ)をの海士(あま)の名をやしづめむ」
[訳] 年月を経て有名な伊勢の海士(=在原業平(ありわらのなりひら))の名を落としめてよいものだろうか。
しづ・む 【鎮む】
活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}
①
(騒動・戦乱を)おさめる。しずめる。
出典源氏物語 明石
「住吉の神、近き境をしづめ守り給(たま)へ」
[訳] 住吉の神よ、近辺をおさめ、守ってくださいませ。
②
(声・音を)小さくする。
出典源氏物語 葵
「声しづめて法華(ほけ)経を読みたる」
[訳] 声を小さくして法華経を読んでいる。
③
〔「人をしづむ」の形で〕寝静まるのを待つ。
出典伊勢物語 六九
「女、人をしづめて、子(ね)一つばかりに、男のもとに来たりけり」
[訳] 女は、人が寝静まるのを待って、子一つ(=午前零時)ごろになって男のところへ来たのだった。
④
(気持ちを)落ち着かせる。平静にさせる。
出典源氏物語 若菜上
「弁の君もえしづめず、立ちまじれば」
[訳] 弁の君も平静でいられず、仲間に入ったので。
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