学研全訳古語辞典 |
つ・く 【付く・着く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
くっつく。付着する。接触する。
出典徒然草 二一五
「台所の棚に、小土器(こかはらけ)に味噌(みそ)の少しつきたるを見いでて」
[訳] 台所の棚に、小さな素焼きの皿にみその少しくっついているのを見つけだして。
②
備わる。身につく。加わる。
出典宇治拾遺 六・四
「取りたる侍(さぶらひ)は、思ひかけぬたよりある妻まうけて、いとよく徳つきて」
[訳] (お参りの証文を)取った侍は、思いがけないよりどころのある妻をもらって、たいそうよく財産が身について。
③
(物の怪(け)などが)とりつく。のり移る。
出典宇治拾遺 三・六
「あさましきことかな。物のつき給(たま)へるか」
[訳] あきれはてたことだなあ。あやしげなものがのり移り気でもおかしくなられたか。◇多く「憑く」と書く。
④
(気持ちなどが)生じる。起こる。
出典源氏物語 若紫
「明け暮れの慰めにも見ばやと思ふ心、深うつきぬ」
[訳] 毎日の心の慰めとしてもこの少女を見たいと思う心が、(源氏に)強く起こった。
⑤
付いて行く。付き従う。
出典今昔物語集 二五・一二
「『構へて盗まむ』と思ひて、ひそかにつきて上りけるに」
[訳] (馬盗人は)「何とかしてこの馬を盗もう」と思って、そっと付き従って上京したが。
⑥
到着する。着く。
出典土佐日記 二・六
「難波(なには)につきて、川尻(かはじり)に入る」
[訳] 難波に着いて、河口に入る。
⑦
(座席や地位に)つく。着座する。就任する。
出典古今集 仮名序
「春宮(とうぐう)を互いに譲りて位につき給(たま)はで」
[訳] 皇太子の位を互いに譲り合って位におつきにならないで。
⑧
決まる。落ち着く。
出典蜻蛉日記 上
「とにもかくにもつかで、世に経(ふ)る人ありけり」
[訳] ああもこうも、どっちつかずで(態度が)決まらないで月日を送る人がいた。
⑨
〔「につき」「につきて」の形で〕…に関して。
出典諸国ばなし 浮世・西鶴
「それにつき、上書(うはが)きに一作あり」
[訳] それに関して、金包みの上書きにひとつ趣向がある。
活用{か/き/く/く/け/け}
①
身に備える。身につける。体得する。
出典徒然草 一五〇
「能をつかんとする人」
[訳] 芸能を身につけようとする人は。
②
(名を)つける。命名する。
出典枕草子 虫は
「人の名につきたる、いとうとまし」
[訳] 人の名に(蠅(はえ)と)つけているのは、たいそういやな感じだ。
{語幹〈つ〉}
①
くっつける。付着させる。接触させる。
出典諸国ばなし 浮世・西鶴
「内証より、内儀(ないぎ)声を立て、『小判はこの方へ参った』と重箱のふたにつけて」
[訳] 台所から奥方が声を出して「小判はこちらへ来ていました」と、重箱のふたにくっつけて。
②
(気持ちを)起こさせる。関心を払う。(心を)向ける。
出典徒然草 二一
「月・花はさらなり、風のみこそ、人に心はつくめれ」
[訳] 月や花は言うまでもないが、風はとりわけ、人に感動の気持ちを起こさせるようだ。
③
付き従わせる。付き添わせる。
出典大鏡 道隆
「使ひをつけて、たしかにこの島に送り給(たま)へりければ」
[訳] (捕虜に)使者を付き添わせて、確かにこの(壱岐(いき)対馬(つしま)の)島に送りなさったところ。
④
任せる。委嘱(いしよく)する。託す。
出典伊勢物語 九
「京に、その人の御もとにとて、文(ふみ)書きてつく」
[訳] 都へ、ある人のいらっしゃる所にと思って、手紙を書いて託す。
⑤
(地位に)つける。就任させる。即位させる。
出典平家物語 三・大塔建立
「いかにもして皇子(わうじ)御誕生あれかし。位につけ奉り」
[訳] どうにかして皇子がお生まれになってほしい。その皇子を帝位におつけ申し上げて。
⑥
(名を)つける。名づける。命名する。
出典堤中納言 虫めづる姫君
「いま新しきには名をつけて興じたまふ」
[訳] (姫君は)さらに新しいの(=虫)には名前をつけて面白がりなさる。
⑦
(和歌・俳諧(はいかい)などで、上の句、または下の句を)詠み加える。つける。
出典枕草子 二月つごもり頃に
「これが本はいかでかつくべからむと思ひわづらひぬ」
[訳] この(句に対する)上の句はどうつけるのがよいだろうかと思い悩む。
⑧
対応させる。応じさせる。関連させる。
出典徒然草 一
「程につけつつ、時にあひ、したり顔なるも」
[訳] それぞれの身分や家柄に応じて、時運にあって栄達し、得意顔であるのも。
⑨
〔「につけて」の形で〕…に関して。…につけて。
出典徒然草 一八八
「若きほどは、諸事につけて…心にはかけながら」
[訳] 若いうちはいろいろなことに関して…気にはかけながら。
作り物語
分類文芸
平安時代の物語文学の一つ。客観的な叙事性を持つのを特色とする、創作による架空の物語。『竹取物語』『宇津保(うつほ)物語』『落窪(おちくぼ)物語』『源氏物語』『堤中納言物語』『浜松中納言物語』などがある。同じ時期に現れた「歌物語」に対していう。
つ・く 【吐く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
呼吸をする。(息を)吐く。
出典古事記 応神
「鳰鳥(みほどり)の潜(かづ)き息つき」
[訳] かいつぶり(=鳥の名)が(水中に)潜り(水面に上がって)息を吐き。
②
(へどを)吐く。排せつする。
出典竹取物語 竜の頸の玉
「青へどをつきてのたまふ」
[訳] へどを吐いておっしゃる。
③
(よくないことを)口外する。(うそを)言う。
出典鑓権三 浄瑠・近松
「権三(ごんざ)がうそをつくものか」
[訳] 権三がうそを言うものか。
つ・く 【尽く】
活用{き/き/く/くる/くれ/きよ}
①
消えてなくなる。果てる。尽きる。
出典徒然草 一三七
「大きなる器(うつはもの)に水を入れて、細き穴をあけたらんに、…やがてつきぬべし」
[訳] 大きな器に水を入れて、小さい穴をあけたとしたら、…間もなく(水は)消えてなくなるにちがいない。
②
極に達する。極まる。
出典源氏物語 紅葉賀
「今日の試楽(しがく)は、青海波(せいがいは)に事みなつきぬ」
[訳] 今日の試楽は、(源氏の)青海波(の舞)に極まったことだ。
つ・く 【搗く・舂く】
活用{か/き/く/く/け/け}
杵(きね)をもって、穀物などを押しつぶしたり、殻を除いたりする。
出典万葉集 三四五九
「稲つけばかかる吾(あ)が手を」
[訳] ⇒いねつけば…。
つ・く 【漬く】
活用{か/き/く/く/け/け}
水にひたる。水につかる。
出典万葉集 一三八一
「広瀬川袖(そで)つくばかり浅きをや」
[訳] あなたは、私の長い袖が水につかりそうに浅い広瀬川のように薄情なのに。
つ・く 【突く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
刺し通す。
出典徒然草 一八三
「人つく牛をば角(つの)を切り」
[訳] 人を刺し通す牛は、角を切り。◇「衝く」とも書く。
②
強く押す。
出典平家物語 九・越中前司最期
「越中前司が鎧(よろひ)の胸板をばぐっとついて」
[訳] 越中前司の鎧の胸板をぐっと強く押して。◇「衝く」とも書く。
③
打ち鳴らす。
出典源氏物語 末摘花
「鐘つきて」
[訳] 鐘を打ち鳴らして。◇「撞く」とも書く。
④
(杖(つえ)を)つく。
出典万葉集 四二〇
「杖つきもつかずも行きて」
[訳] 杖をついても、つかなくても行って。
⑤
ぬかずく。拝むために、頭・額などを地面や床に強く押し当てる。
出典更級日記 かどで
「身を捨てて額(ぬか)をつき、祈り申すほどに」
[訳] 身体を地に投げ出して、額(ひたい)を床に押し当て、祈り申し上げていると。
つ・く 【築く】
活用{か/き/く/く/け/け}
築(きず)く。土石を突き固めて積み上げる。
出典徒然草 六
「聖徳太子の、御墓(みはか)をかねてつかせ給(たま)ひける時も」
[訳] 聖徳太子が、御墓を生前に築かせなさった時も。
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