学研全訳古語辞典 |
まへ 【前】
①
前方。前。
出典徒然草 四一
「賀茂(かも)の競(くら)べ馬を見侍(はべ)りしに、車のまへに雑人(ざふにん)立ち隔てて見えざりしかば」
[訳] 賀茂の祭りの競べ馬を見物しましたところ、牛車(ぎつしや)の前方に身分の低い者たちが立ちさえぎって見えなかったので。
②
以前。前。昔。
出典更級日記 夫の死
「初瀬にて、まへの度、『稲荷(いなり)よりたまふしるしの杉よ』とて、投げいでられしを」
[訳] 初瀬で、以前の参詣(さんけい)のとき、「稲荷様からくださる証拠の杉よ」と言って、投げ出されたのを。
③
神や貴人などを間接的にさしていう語。▽接頭語「お(御)」などを伴って。
出典枕草子 うへにさぶらふ御猫は
「御まへにもいみじうおち笑はせ給(たま)ふ」
[訳] 中宮様におかれても、(事情がわかって)大変お笑いになられる。
④
伺候(しこう)。参上。伺い。貴人のそば近くに出て仕えること。
出典枕草子 宮にはじめてまゐりたるころ
「あへなきまで御(お)まへ許されたるは」
[訳] あっけないほど簡単に御前に出て仕えることを許されたのは。
⑤
女性を尊敬して名前につける語。▽「…のまへ」の形で。
出典平家物語 一〇・千手前
「千手(せんじゆ)の前」
[訳] 千手様。
まへのページへのリンク |