学研全訳古語辞典 |
あら・ぶ 【荒ぶ】
活用{び/び/ぶ/ぶる/ぶれ/びよ}
①
荒々しくする。あばれる。
出典古事記 景行
「あらぶる蝦夷(えみし)どもを言向(ことむ)け」
[訳] あばれる蝦夷どもを説得して服従させ。
②
情が薄くなる。疎遠になる。
出典万葉集 二八二二
「あらぶる妹(いも)に恋ひつつそをる」
[訳] 疎遠になるあなたに恋いこがれていることだ。
さ・ぶ 【荒ぶ・寂ぶ】
活用{び/び/ぶ/ぶる/ぶれ/びよ}
①
荒れた気持ちになる。
出典万葉集 五七二
「朝(あした)夕べにさびつつ居(を)らむ」
[訳] 朝夕絶望的な気持ちになって過ごすのだろうか。
②
(光や色が)弱くなる。あせる。
出典新古今集 秋下
「浅茅(あさぢ)の月のいとどさびゆく」
[訳] 浅茅に照る月の光もいよいよ弱まっていく。
③
(古びて)趣が出る。
出典平家物語 灌頂・大原入
「岩に苔(こけ)むしてさびたる所なりければ」
[訳] 岩にこけがむして趣が出ている所であったので。
④
さびる。
出典源氏物語 朝顔
「錠(ぢやう)のいといたくさびにければ」
[訳] 錠がたいへんひどくさびていたので。◇「錆ぶ」とも書く。
すさ・ぶ 【荒ぶ・遊ぶ】
活用{び/び/ぶ/ぶる/ぶれ/びよ}
活用{ば/び/ぶ/ぶ/べ/べ}
①
慰み楽しむ。気の向くままに…する。慰みに…する。
出典源氏物語 澪標
「箏(さう)の御琴引き寄せて、かき合はせすさび給(たま)ひて」
[訳] (源氏は)箏(そう)のお琴を引き寄せて、調子を整え、気の向くままに弾きなさって。
②
盛んに…する。ほしいままに…する。さかる。
出典万葉集 二二八一
「朝露に咲きすさびたるつき草の」
[訳] 朝露に盛んに咲いている露草が。
③
衰えてやむ。
出典新古今集 恋四
「思ひかねうち寝(ぬ)る宵もありなまし吹きだにすさべ庭の松風」
[訳] 待つ思いの苦しさに耐えかねて寝てしまう宵もきっとあろう。せめて(眠りを妨げないように)吹き衰えてくれ、庭の松風よ。
語の歴史
平安時代までは、四段・上二段の例が見えるが、平安時代末期以後、四段活用が中心となり、一般的には使われなくなる。意味も、古くは、「気の向くままに行動する」意であったが、その意味の一部分である「荒れる」が特に強く意識されるようになり、現代語では、「風吹きすさぶ」のようにその意だけで使われている。なお、バ行音・マ行音は音が近いことから、「すさぶ」「すさむ」の両形が古くから併用された。
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