学研全訳古語辞典 |
うつ・す
活用{さ/し/す/す/せ/せ}
(一)
【写す】
①
書き写す。模写する。
出典徒然草 一二〇
「書(ふみ)どもは、この国に多く広まりぬれば、書きもうつしてん」
[訳] 書物などは、この国にも多く広まってしまったから、書いて、写すこともできよう。
②
模倣する。まねる。
出典源氏物語 少女
「内裏(うち)の儀式をうつして」
[訳] 宮中の儀式をまねて。
③
模造する。
出典大鏡 道長上
「天竺(てんぢく)の祇園精舎(ぎをんしやうじや)を、唐の西明寺にうつし造り」
[訳] インドの祇園精舎を唐の西明寺に模造して造り。
(二)
【映す】映す。映ずる。
出典源氏物語 胡蝶
「池の水に影をうつしたる山吹(やまぶき)」
[訳] 池の水に影をうつしている山吹が。
うつ・す 【移す】
活用{さ/し/す/す/せ/せ}
①
動かす。移動させる。置き変える。
出典源氏物語 桐壺
「もとよりさぶらひ給(たま)ふ更衣の曹司(ざうし)をほかにうつさせ給ひて」
[訳] 以前からお仕えしていらっしゃった更衣の部屋を(帝(みかど)は)ほかにお移しなさって。
②
流罪にする。
出典増鏡 新島守
「院の上、都のほかにうつし奉るべし」
[訳] 後鳥羽院を都の外にお流し申し上げるべきだ。
③
(心を)動かす。心変わりする。気をとられる。
出典源氏物語 蛍
「かかるすずろごとに心をうつし、はかられ給(たま)ひて」
[訳] このようなとりとめのないことに気持ちを動かし、だまされなさって。
④
しみ込ませる。
出典古今集 春上
「梅が香(か)を袖(そで)にうつしてとどめてば」
[訳] 梅の香りを袖にしみ込ませて残しておいたならば。
⑤
(時を)過ごす。経過させる。
出典徒然草 一二三
「無益(むやく)のことをなして時をうつすを」
[訳] 役に立たないことをして時を過ごすのを。
⑥
物の怪(け)をほかにのりうつらせる。
出典枕草子 松の木立高き所の
「もののけにいたう悩めば、うつすべき人とて」
[訳] (病人が)物の怪にたいそう苦しむので、(それを他へ)のりうつらせるのにふさわしい人として。
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