学研全訳古語辞典 |
かみ 【神】
①
神。▽人の目には見えないが、超自然的能力をもつ存在。
出典今昔物語集 三一・三三
「なんぢ、されば、何者ぞ。鬼かかみか」
[訳] ではお前は何者か。鬼か、それとも神か。
②
神。▽神話で、人格化され、国土を創造し支配したとされる存在。
出典古事記 神代
「次に成りませるかみの名は、国之常立(くにのとこたち)のかみ」
[訳] 次にお生まれになった神の名は、国の常立の神。
③
天皇。▽最高の支配者である天皇を神格化。
出典万葉集 二九
「橿原(かしはら)のひじりの御代ゆ生(あ)れまししかみのことごと」
[訳] 橿原の天皇(=神武天皇)の御代以来お生まれになった天皇のすべてが。
④
雷。
出典伊勢物語 六
「かみさへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ」
[訳] (夜も更けたうえに)雷までとてもひどく鳴り、雨もひどく降ったので。
⑤
(神社の)祭神。
出典徒然草 五二
「かみへ参るこそ本意(ほい)なれと思ひ、山までは見ず」
[訳] (岩清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう)の)祭神へお参りすることこそ本来の目的であると思って、山までは(行って)見ない。
かみ 【長官】
律令制で、「四等官」の首位。その役所の仕事を統率する長官。
参考
役所によって異なる字を当てる。神祇(じんぎ)官では「伯」、太政(だいじよう)官では「大臣」、省では「卿」、国司では「守」など。
かみ 【髪】
髪の毛。頭髪。
出典枕草子 うらやましげなるもの
「かみいと長くうるはしく、下がり端(ば)などめでたき人」
[訳] 髪が非常に長く美しく、垂れた髪の先などが見事である人(もうらやましい)。
参考
平安時代の貴族社会の女性は、つややかで長い黒髪を理想とし、そのような髪をもつことが美人としての最大の条件であった。物語作品には、女性をほめる表現として、髪が丈(たけ)に余るほど長いことを描写している場面がよく見られる。
かみ 【上】
①
上(うえ)。上方。
出典伊勢物語 八七
「この山のかみにありといふ布引(ぬのびき)の滝見にのぼらむ」
[訳] この山の上にあるという布引の滝を見に登ろう。
②
川上。上流。
出典伊勢物語 八七
「さる滝のかみに」
[訳] そんな滝の上流に。
③
上の位。上位。
出典伊勢物語 八二
「かみ中(なか)下(しも)みな歌よみけり」
[訳] 身分の上位中位下位の者もみな歌を詠んだ。
④
為政者。お上。
出典徒然草 一四二
「かみのおごり、費やすところをやめ」
[訳] 為政者がぜいたくや、浪費をすることをやめ。
⑤
年長者。年上。
出典源氏物語 若菜下
「七つよりかみのは、みな殿上(てんじやう)せさせ給(たま)ふ」
[訳] 七歳から年上の者は、みな昇殿をおさせになる。
⑥
主人。主婦。おかみ。
出典女腹切 浄瑠・近松
「下(しも)の町(ちやう)の酒屋のかみ」
[訳] 下手にある町の酒屋のおかみ。
⑦
優位。上位。
出典古今集 仮名序
「人麻呂(ひとまろ)は赤人(あかひと)がかみに立たむ事かたく」
[訳] (柿本(かきのもとの))人麻呂は(山部(やまべの))赤人の上位に立つようなことはむずかしく。
⑧
上席。上座。
出典大鏡 道隆
「この入道殿のかみにさぶらはれしは」
[訳] (高階成忠(たかしななりただ)が)今の入道殿(=道長)の上座にお着き申し上げなさったのは。
⑨
京都。京阪地方。
出典好色一代男 浮世・西鶴
「なんとそののちはかみへも上(のぼ)らぬか」
[訳] なんとまあ、その後は京都へも行かないのか。
⑩
(京都で、内裏(だいり)に近い)北の方。
出典大鏡 道長下
「焼亡(せうまう)かと思ひて、かみを見あぐれば」
[訳] 火事かと思って、北の方を見上げたところ。
⑪
はじめ。(和歌の)上の句。
出典伊勢物語 九
「かきつばたといふ五文字(いつもじ)を句のかみに据ゑて」
[訳] かきつばたという五文字を句のはじめに置いて。
⑫
月の前半。上旬。
出典今昔物語集 一五・五一
「月のかみの十五日には」
[訳] 月の前半の十五日間は。
⑬
古い時代。昔。
出典千載集 序
「かみ正暦(しやうりやく)のころほひより、しも文治(ぶんぢ)の今に至るまで」
[訳] 古くは正暦のころから、のちは文治の今に至るまで。[反対語]①~⑬下(しも)。
参考
「かみ」と「うへ」の違い 「うへ」は「した」と隔たりをもって対立し、物の表面や空間的な高所を示す。「かみ」は「なか」「しも」と一続きのものの中で、時間的にも空間的にも、初めの方、さかのぼった方、また人間関係においての上位を示す。
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