学研全訳古語辞典 |
とく 【徳】
①
道徳。人の道。
出典徒然草 一三〇
「人に本意(ほい)なく思はせてわが心を慰まん事、とくに背けり」
[訳] 他人にいやな思いをさせて、自分の心を楽しませることは、道徳にそむいている。
②
人徳。徳望。
出典大鏡 道長下
「これはとくいたりたる翁(おきな)どもにてさぶらふ」
[訳] これは人徳が極致に達した老人たちでございます。
③
天性。長所。生まれつきの能力。
出典徒然草 一二二
「よく味はひをととのへ知れる人、大きなるとくとすべし」
[訳] よく味の具合に精通している人は、大きな長所とすべきだ。
④
恵み。恩恵。
出典源氏物語 澪標
「神の御とくをあはれにめでたしと思ふ」
[訳] 神の御恩恵をしみじみすばらしいと思う。
⑤
おかげ。
出典落窪物語 四
「帥(そち)はこの殿の御とくに、大納言になり給(たま)へり」
[訳] 帥はこの殿のおかげで、大納言になられた。
⑥
利益。もうけ。所得。
出典今昔物語集 九・三七
「そのとくおのづからありて」
[訳] そのもうけがしぜんと出てきて。◇「得」とも書く。
⑦
富。財産。
出典源氏物語 東屋
「物ぎたなき人ならず、とくいかめしうなどあれば」
[訳] 卑しげな人ではなく、財産も豊かな人であるので。◇「得」とも書く。
と・く 【溶く・融く】
活用{か/き/く/く/け/け}
溶く。溶かす。
出典古今集 春上
「袖(そで)ひちてむすびし水の凍れるを春立つ今日の風やとくらむ」
[訳] ⇒そでひちて…。
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
溶ける。
出典源氏物語 末摘花
「軒の垂氷(たるひ)はとけながら」
[訳] 軒先のつららは溶けるのに。
とく 【疾く】
①
すぐに。早速。急いで。
出典土佐日記 二・五
「船とく漕(こ)げ」
[訳] 船を急いで漕げ。
②
すでに。とっくに。
出典源氏物語 夕顔
「息はとく絶え果てにけり」
[訳] 息はすでにすっかり絶えてしまった。
と・く 【解く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
ほどく。
出典諸国ばなし 浮世・西鶴
「上座から帯をとけば、その次も改めける」
[訳] 上座の者から帯をほどくと、その次の者も調べた。
②
取り外す。脱ぐ。
出典今昔物語集 二五・一二
「いまだ装束もとかで丸寝(まろね)にてありければ」
[訳] まだ昼の衣装も脱がないで、着衣のまま寝ていたので。
③
ほぐして整える。(櫛(くし)で)すく。
出典源氏物語 手習
「とき果てたれば、つやつやと清(けう)らなり」
[訳] (髪は)すっかり(櫛で)すき終わっていたので、つやつやと光沢があって美しい。
④
答えを出す。解答する。
出典徒然草 一〇三
「なぞなぞを作りてとかれけるところへ」
[訳] なぞなぞを作って解答を出しておられたところへ。
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
①
ほどける。
出典万葉集 三一四六
「草枕(くさまくら)(=枕詞(まくらことば))旅の衣の紐(ひも)とけぬ」
[訳] 旅の衣のひもがほどけて。
②
消える。なくなる。
出典源氏物語 少女
「その恨みはおのづからとけ侍(はべ)りなむ」
[訳] その不平は自然にきっと消えていくでしょう。
③
うちとける。安心する。
出典源氏物語 帚木
「君はとけても寝られ給(たま)はず」
[訳] 源氏の君はうちとけて休むこともおできにならず。
④
官職から離れる。
出典古今集 雑下
「左近(さこん)の将監(しやうげん)とけて侍(はべ)りける時に」
[訳] 左近の将監の職から離れておりました時に。
と・く 【説く】
活用{か/き/く/く/け/け}
説明する。言い聞かせる。
出典徒然草 二二二
「称名(しやうみやう)を追福(ついふく)に修(しゆ)して巨益(こやく)あるべしととける経文を見及ばねば」
[訳] 念仏を追善供養のためにとなえて大きな御利益(りやく)があるはずだと説明しているお経をまだ見ていないので。
とくのページへのリンク |