学研全訳古語辞典 |
か・く 【懸く・掛く】
活用{か/き/く/く/け/け}
垂れ下げる。かける。
出典万葉集 八九二
「甑(こしき)にはくもの巣かきて」
[訳] ⇒かぜまじり…。
{語幹〈か〉}
①
垂れ下げる。かける。もたれさせる。
出典古事記 允恭
「斎杙(いくひ)には鏡をかけ」
[訳] 神聖なくいには鏡をかけ。
②
かけ渡す。
出典古今集 秋下
「山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉(もみぢ)なりけり」
[訳] ⇒やまがはに…。
③
(扉に)錠をおろす。掛け金をかける。
出典狭衣物語 二
「妻戸荒らかにかけつる音すれば」
[訳] 両開きの板戸に荒々しく錠をおろしてしまう音がするので。
④
合わせる。兼任する。兼ねる。
出典伊勢物語 六九
「国の守(かみ)、斎(いつき)の宮の守かけたる」
[訳] 伊勢の国の長官で斎宮寮の長官を兼ねている人が。
⑤
かぶせる。かける。
出典平家物語 四・鵼
「御衣(ぎよい)を肩にかけて退出す」
[訳] (源頼政は二条天皇から賜った)御衣を肩にかけて退出した。
⑥
降りかける。あびせかける。
出典金葉集 恋下
「音に聞くたかしの浜のあだ波はかけじや袖(そで)の濡ぬれもこそすれ」
[訳] ⇒おとにきく…。
⑦
はかり比べる。対比する。
出典伊勢物語 二三
「筒井つの井筒にかけしまろが丈(たけ)過ぎにけらしな妹(いも)見ざる間に」
[訳] ⇒つつゐつの…。
⑧
待ち望む。
出典古今集 春上
「梅が枝えに来きゐる鶯(うぐひす)春かけて鳴けどもいまだ雪は降りつつ」
[訳] 梅の枝に来てとまっているうぐいすが、春を待ち望んで鳴いているけれども、まだ雪は降り続いている。
⑨
(心や目に)かける。
出典徒然草 一八八
「行く末久しくあらますことども心にはかけながら」
[訳] 遠い将来まで予期している事柄を心にはかけながら。
⑩
話しかける。口にする。
出典徒然草 一〇九
「『過ちすな。心して下りよ』と言葉をかけはべりしを」
[訳] 「失敗するな。用心して(木から)降りろ」と(名人が)言葉をかけましたので。
⑪
託する。預ける。かける。
出典平家物語 三・御産
「官加階に望みをかけ」
[訳] 官位の昇進に希望を託し。
⑫
だます。
出典古今六帖 五
「今来こむといひしばかりにかけられて」
[訳] すぐに来ようといったばかりにだまされて。
⑬
目標にする。目ざす。
出典古今集 羇旅
「わたの原八十島(やそしま)かけて漕こぎ出いでぬと人には告げよ海人(あま)の釣つり舟」
[訳] ⇒わたのはらやそしまかけて…。
⑭
関係づける。加える。
出典丹波与作 浄瑠・近松
「お供かけて三人ぢゃ」
[訳] お供を加えて三人だ。
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
〔動詞の連用形に付いて〕
①
しかける。仕向ける。…かける。
出典更級日記 大納言殿の姫君
「『…』と言ひかくれば、顔をうちまもりつつ、なごうなくも」
[訳] 「…」と話しかけると、(猫は)私の顔をじっと見つめながら穏やかに鳴くのも。
②
途中まで…する。…しそうになる。…かける。
出典源氏物語 若菜下
「琵琶(びは)うち置きて、ただけしきばかり弾きかけて」
[訳] 琵琶をそっと置いて、ほんのちょっと弾きかけて。
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