学研全訳古語辞典 |
なに-がし 【何某・某】
なんとかという人。だれそれ。どこそこ。▽人・事物・場所・方向などで、その名前がわからないとき、また、知っていても省略するとき用いる。
出典徒然草 一四一
「悲田院(ひでんゐん)の尭蓮上人(げうれんしやうにん)は、俗姓は三浦のなにがしとかや、さうなき武者(むしや)なり」
[訳] 悲田院の尭蓮上人は、出家前の俗人としての姓は三浦のだれそれとかという、並ぶ者のない武士である。
わたくし。▽自称の人称代名詞。男性が謙譲の意をこめて、改まった気持ちでいう。
出典源氏物語 若紫
「その北の方(かた)なむ、なにがしが妹に侍(はべ)る」
[訳] その方の奥方は、わたくしの妹でございます。
くれ-がし 【某】
だれだれ。かれそれ。▽「なにがし」と並べて用いる。
出典源氏物語 夕顔
「『なにがし、くれがし』と数へしは」
[訳] 「だれそれ、かれそれ」と列挙したのは。◆「がし」は接尾語。
それ-がし 【某】
①
だれそれ。だれだれ。▽不定称の人称代名詞。名のはっきりしない人、または知っていても明らかにする必要のない人をぼかしてさす。
出典蜻蛉日記 中
「ただ今、殿より御文(ふみ)もて、それがしなむ参りたりつる」
[訳] 今、ご主人からの御手紙をもって、だれそれが参上した。
②
私。▽自称の人称代名詞。男性が少し謙そんして用いる。
出典宇治拾遺 四・一一
「それがし、おほくの丈六を作り奉れり」
[訳] 私が、たくさんの一丈六尺の仏像をお作り申し上げた。
参考
②は鎌倉時代以後。室町時代以後は②の意のみとなり、①の意には「なにがし」が用いられる。
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