学研全訳古語辞典 |
ま-く
…だろうこと。…(し)ようとすること。
出典万葉集 一〇三
「大原の古(ふ)りにし里に降らまくは後(のち)」
[訳] 大原の古びてしまった里に降るだろうことはまだ後(のことだろう)。◆派生語。
語法
活用語の未然形に付く。
なりたち
推量の助動詞「む」の古い未然形「ま」+接尾語「く」
ま・く 【任く】
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
①
任命する。任命して派遣する。遣わす。
出典万葉集 一九九
「まつろはぬ国を治めと皇子(みこ)ながらまけ給(たま)へば」
[訳] 服従しない国を治めよと皇子の(意志の)ままに任命なさると。
②
命令によって退出させる。しりぞける。
出典日本書紀 神代下
「時に皇孫(すめみま)、姉は醜しと思(おぼ)ほして、めさずしてまけ給(たま)ふ」
[訳] その時、皇孫は、姉の方は醜いとお思いになって、妻にせずしりぞかせなさった。◆上代語。
ま・く 【巻く・捲く・纏く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
(ものに)巻き付ける。からませる。
出典万葉集 七二九
「玉ならば手にもまかむを」
[訳] 玉であるならば手にも巻き付けようものを。
②
丸く巻く。
出典伊勢物語 一〇七
「男いといたうめでて、今まで、まきて文箱(ふばこ)に入れてあり」
[訳] 男はひどく感動して、今まで(手紙を)、丸く巻いて文箱に入れてある。
③
取り囲む。取り巻く。
出典愚管抄 五
「御所(ごしよ)をまきて火をかけてけり」
[訳] 御所を取り囲んで火をかけた。
ま・く 【枕く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
枕(まくら)とする。枕にして寝る。
出典万葉集 二二三
「鴨山(かもやま)の磐根(いはね)しまける我をかも知らにと妹(いも)が待ちつつあらむ」
[訳] 鴨山の岩を枕にして倒れている私のことを、そうとは知らずに妻が待ち続けていることであろうか。
②
共寝する。結婚する。
出典日本書紀 神武
「七行(ななゆ)く媛女(をとめ)ども誰(たれ)をしまかむ」
[訳] 七人で通って行く娘たち、その中のだれと共寝しよう。◆②は「婚く」とも書く。のちに「まぐ」とも。上代語。
ま・く 【蒔く・播く・撒く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
種や餌(えさ)をまく。まき散らす。
出典徒然草 一六二
「堂の内まで餌(え)をまきて」
[訳] 堂の中までえさをまいて。
②
散らし書きにする。▽書法の一つ。
出典源氏物語 須磨
「白き唐(から)の紙四、五枚ばかりをまきつづけて」
[訳] 白い唐紙四、五枚ほどを散らし書きにしつづけて。
③
(蒔絵(まきえ)で)金銀粉などをまき散らす。蒔絵をする。
出典大鏡 伊尹
「海賦(かいぶ)に蓬莱山(ほうらいさん)・手長(てなが)・足長(あしなが)、金(こがね)してまかせ給(たま)へり」
[訳] 海辺の景色の図に蓬莱山・手長(=古代中国の想像上の人間。「足長」も同じ)・足長を金で蒔絵になさった。
ま・く 【設く】
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
①
前もって用意する。準備する。
出典万葉集 一七八〇
「さ丹塗(にぬ)りの小船(をぶね)をまけ」
[訳] 赤く塗った小船を用意し。
②
前もって考えておく。
出典万葉集 二四三九
「奥まけてわが思ふ妹(いも)が言(こと)の繁(しげ)けく」
[訳] 将来まで前もって考えてわたしの思うあの娘にうわさが多いことよ。
③
時期を待ち受ける。(その季節や時が)至る。
出典万葉集 一四八五
「夏まけて咲きたる唐棣(はねず)」
[訳] 夏を待ち受けて咲いたはねず。◆上代語。中古以後は「まうく」。
ま・く 【負く】
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
①
負ける。敗れる。
出典徒然草 一一〇
「勝たんと打つべからず、まけじと打つべきなり」
[訳] (すごろくは)勝とうと(思って)打ってはならない、負けまいと(思って)打つべきである。
②
気がひける。ひけめを感じる。
出典土佐日記 一・四
「にぎははしきやうなれど、まくる心地(ここち)す」
[訳] 景気がよいようだが、(返礼もろくにできないで)気がひける感じがする。
③
相手の主張に従う。譲る。
出典竹取物語 火鼠の皮衣
「まことならめと思ひて、人の言ふことにもまけめ」
[訳] 本物だろうと思って、人の言うことにも従おう。
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
値引きする。まける。
出典胸突 狂言
「そのわび事に、今までの利分(りぶん)をばまけておまさうぞ」
[訳] そのおわびに、今までの利息分をまけてさしあげよ。◆[二]は近世語。
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