学研全訳古語辞典 |
つち-の-と 【己】
「十干(じつかん)」の第六。◆「土の弟(と)」で土性の陰の意。
おの-れ 【己】
①
本人。自分自身。▽反照代名詞。
出典徒然草 一〇九
「枝危ふきほどは、おのれが恐れはべれば申さず」
[訳] 枝が折れそうで危ない間は、本人がこわがっているから何も申しません。
②
私。▽自称の人称代名詞。多くの場合、謙譲の気持ちを含む。
出典源氏物語 若紫
「ただ今、おのれ見捨て奉らば、いかで世におはせむとすらむ」
[訳] たった今、私が(あなたを)あとにお残し申して死んでしまったら、どのようにしてこの世を生きていこうとなさるのだろうか。
③
おまえ。▽対称の人称代名詞。相手を見下した気持ちのときに用いる。
出典宇治拾遺 三・一七
「これは、おのれはなちては、たれか書かん」
[訳] これは、おまえを除いては、だれが書くだろうか。いや、おまえしかいない。
おのずから。ひとりでに。
出典源氏物語 末摘花
「松の木のおのれ起き返りてさとこぼるる雪も」
[訳] (雪のためにたわんだ)松の木がひとりでに起き返ってさっと落下して散る雪も。
やい。こらっ。▽相手をののしったり、強く呼びかけるときに発する語。
出典末広がり 狂言
「おのれ、にくいやつの」
[訳] やい、憎いやつだのう。
おの 【己】
自分自身。その物自身。われ。私。▽自称の人称代名詞。
参考
ふつう助詞「が」を伴った「おのが」の形で用いられる。
おれ 【己】
①
おまえ。きさま。▽対称の人称代名詞。下位の者に対して、または、相手を卑しめて言う。
出典枕草子 賀茂へまゐる道に
「おれ鳴きてこそ我は田植うれ」
[訳] (ほととぎすよ)おまえが鳴くので、おれは田植えをするのだ。
②
わたし。▽自称の人称代名詞。相手が同等、または目下のときに言うことが多い。男女の区別なく用いた。
出典好色一代男 浮世・西鶴
「おれは胡桃和(くるみあ)への餠(もち)を飽(あ)くほど」
[訳] わたしはくるみ和えの餠を腹いっぱい(食べたい)。
語の歴史
対称の「おれ」は、記紀から例が見えるが、平安時代には『枕草子』に一例ある程度で、貴族社会、特に女子の間では下品な語として嫌われていたらしい。鎌倉時代には、下層貴族・武士・庶民などが主人公として登場する説話文学に例が目立つが、室町時代になって自称の「おれ」の用法が広まるとともに消えて行く。自称の「おれ」は、鎌倉時代にも散見するが、室町時代から盛んに使われ出した。はじめ、男女の別なく用いられたが、江戸時代後期ごろから、女性の使用は絶えた。
うぬ 【己】
①
おのれ。おれ。自分自身。▽自称の人称代名詞。自分を卑しめていう語。
②
きさま。てめえ。おまえ。▽対称の人称代名詞。相手をののしっていう語。◆「汝」とも書く。「おの(己)」の変化した語。
己のページへのリンク |