学研全訳古語辞典 |
せ-・む 【為む】
分類連語
①
〔「む」が推量の意の場合〕するだろう。
出典枕草子 四月、祭の頃
「たどたどしきを聞きつけたらむは、なにここちかせむ」
[訳] (ほととぎすが)心もとなく鳴いたのを聞きつけたようなのは、いったいどんな気持ちがするだろう(=すばらしい)。
②
〔「む」が意志の意の場合〕しよう。
出典土佐日記 二・五
「またも恋ふる力にせむ、となるべし」
[訳] また再び恋い慕う力にしようというのだろう。
なりたち
サ変動詞「す」の未然形+推量・意志の助動詞「む」
せ・む 【責む】
活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}
①
とがめる。なじる。責める。
出典宇治拾遺 六・四
「双六(すごろく)を打ちけるが、多く負けて、渡すべき物なかりけるに、いたくせめければ」
[訳] (若侍は)双六を打ったが、さんざん負けて、(相手に)与えることができそうな物がなかったときに、(相手が)とても責めたので。
②
催促する。せがむ。強要する。
出典奥の細道 象潟
「江山(かうさん)水陸の風光数を尽くして、今、象潟(きさかた)に方寸(はうすん)をせむ」
[訳] 川や山、海や陸のすばらしい景色をたくさん見てきて、今、象潟へと心がせきたてられる。
③
悩ます。苦しめる。
出典古今集 雑体
「冬は霜にぞせめらるる」
[訳] 冬は霜に苦しめられる。
④
追究する。求める。
出典三冊子 俳論
「せむるものはその地に足を据ゑがたく、一歩自然(じねん)に進む理(ことわり)なり」
[訳] (風雅の誠を)追究する者は、いつまでも同じところに満足してはいられないから、自然に一歩前に進むことになる道理である。
⑤
馬を乗りならす。調教する。
せ・む 【迫む・逼む・攻む】
活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}
近づき迫(せま)る。差し迫る。おしつまる。
出典宇治拾遺 三・六
「家の隣より火いできて、風押し覆ひてせめければ」
[訳] 家の隣(の家)から出火して、風が(その火を)おおいかぶせて差し迫ってきたので。
活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}
①
追いつめる。押し寄せて戦う。攻撃する。
出典徒然草 五九
「無常の来たることは、水火のせむるよりも速やかに、のがれがたきものを」
[訳] 死の到来することは、水や火が押し寄せてくるのよりも速くて、逃げられないものなのに。
②
ぴったりと身につける。
出典平家物語 二・教訓状
「黒糸縅(くろいとをどし)の腹巻の、白金物(しろがなもの)打ったる胸板せめて」
[訳] 黒糸で縅した腹巻で、銀の金具を打ってある胸板をぴったりと身につけて。
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