学研全訳古語辞典 |
こなた 【此方】
①
こちら。ここ。▽話し手に近い方角・場所をさす近称の指示代名詞。
出典源氏物語 若紫
「こなたはあらはにや侍(はべ)らむ」
[訳] こちら(の部屋)は外からまる見えではありませんか。
②
以後。あれから。
出典源氏物語 柏木
「身を思ひ落としてしこなた、なべて世の中すさまじう思ひなりて」
[訳] 自分を見下げてしまって以後、万事世の中を面白くなく思うようになって。
③
それより前。以前。
出典源氏物語 若菜上
「何事をも、御心と思(おぼ)し数まへざらむこなた、ともかくも、はかなくなり侍(はべ)りなば」
[訳] 何事でもご自身のお心でご判断なさることがおできにならないそれより前に、とにかく、(私が)死んでしまいましたならば。
④
この人。▽話題の中心人物をさす他称の人称代名詞。
出典源氏物語 若菜上
「いづかたも皆、こなたの御けはひには、かたさり憚(はばか)るさまにて」
[訳] どなたも皆、この人(=紫の上)のごようすには、遠慮し気がねするようすで。
⑤
あなた。▽対称の人称代名詞。話し相手を敬って言う。
出典餠酒 狂言
「その儀ならば、まづこなたからござれ」
[訳] そのことならば、まずあなたからどうぞ。
⑥
わたし。われ。▽自称の人称代名詞。
出典隅田川 謡曲
「こなたの念仏をば留(とど)め候ふべし」
[訳] わたしの念仏をやめましょう。
こなたのページへのリンク |