学研全訳古語辞典 |
よのなかに…
分類和歌
「世の中にさらぬ別れのなくもがな千代(ちよ)もと祈る人の子のため」
出典伊勢物語 八四
[訳] 世の中に死という避けられない別れがなければいいのになあ。親が千年も長生きしてほしいと祈っている人の子のために。
鑑賞
『伊勢(いせ)物語』の和歌は、別居している母からの歌「老いぬればさらぬ別れのありといへばいよいよ見まくほしき君かな」〈⇒おいぬれば…。〉に対する返歌で、親を思う子の情愛がこもった歌である。『古今和歌集』には、第四句が「千代もと嘆く」となって在原業平(ありわらのなりひら)の歌として載る。
よのなかに…
分類和歌
「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」
出典古今集 春上・在原業平(ありはらのなりひら)
出典伊勢物語 八二
[訳] 世の中に、まったく桜がなかったとしたら、春のころの人々の心はのんびりした気分であったろうに。
鑑賞
作者は、のんびりした気分にさせてくれない桜が嫌いなのではなく、桜への愛情が深いからこそ、はかなく散る桜を惜しんでいるのだ。それを、「…せば…まし」を用いて屈折した理知的な表現で表しているのである。「…せば…まし」は反実仮想の典型的構文である。
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