学研全訳古語辞典 |
な-ぞ 【何ぞ】
①
どうして(…か)。なぜ(…か)。▽疑問の意を表す。
出典土佐日記 二・一
「『なぞ、ただごとなる』と、ひそかにいふべし」
[訳] 「なぜ、こんなに平凡(な歌)なんだろうか」と、こっそり言うに違いない。
②
どうして…か、いや、…ではない。▽反語の意を表す。
出典万葉集 一七七七
「君なくはなぞ身装(よそ)はむくしげなる黄楊(つげ)の小櫛(をぐし)も取らむとも思(も)はず」
[訳] あなたがいないならば、どうしてこの身を飾りましょうか、いや、飾ったりなどしない。櫛箱にあるつげの小櫛も手に取ろうとも思わない。
語法
「なぞ」は疑問語であるため、文中に係助詞がなくても、文末の活用語は連体形で結ぶ。
な-ぞ 【何ぞ】
分類連語
何か。何ものか。何ごとか。どうしたことか。▽文末に用いて不明の事物、状態やその原因などを問いかける。
出典更級日記 初瀬
「行きちがふ馬も車も、徒歩(かち)人も、『あれはなぞ、あれはなぞ』と」
[訳] (私どもと)すれちがう馬(に乗った人)も、牛車(に乗った人)も、(また)徒歩の人も「あれは何か。あれは何か」と。
なりたち
代名詞「なに」+係助詞「ぞ」からなる「なにぞ」が変化した「なんぞ」の撥音(はつおん)「ん」が表記されない形。
なに-ぞ 【何ぞ】
分類連語
(一)
〔「なに」が代名詞の場合〕
①
なんだ。
出典伊勢物語 六
「『かれはなにぞ』となむ男に問ひける」
[訳] 「あれはなんだ」と男にたずねた。
②
〔体言に助詞「か」の付いた形に続けて〕…か何か。
出典新古今集 哀傷・伊勢物語六
「白玉かなにぞと人の問ひしとき」
[訳] ⇒しらたまか…。(一)〔「なに」が副詞の場合〕なぜまあ。どうしてまあ。
出典万葉集 三三七三
「なにそこの児(こ)のここだ愛(かな)しき」
[訳] ⇒たまがはに…。◆「ぞ」は係助詞。
なん-ぞ 【何ぞ】
分類連語
なんだ。なんなのか。「なぞ」とも。
出典枕草子 頭の中将の
「なんぞ。司召(つかさめ)しなども聞こえぬを」
[訳] なんなのか。宮中官吏の任命式(の話)なども聞こえていないのに。
なりたち
代名詞「なに」+係助詞「ぞ」からなる「なにぞ」の変化した語。
①
どうして…か。なぜ…か。▽理由への疑問の意を表す。
出典徒然草 九二
「なんぞ、ただ今の一念において、直ちにすることの甚だ難き」
[訳] どうして、現在の一瞬において、すぐに実行することがひどく難しいのか。
②
どうして…か、いや、…ない。▽反語の意を表す。
出典宇治拾遺 五・四
「なんぞ志を遂げざらん」
[訳] どうして(極楽往生の)志を遂げないことがあろうか、いや、遂げないことはない。
③
なにか。なにかしら。◇近世語。
参考
「なにぞ」の変化した語。
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